心の在りか7
その娘も殺すのか?
妻を、、子どもを殺していた時と同じ様に。
今更罪の意識も無かろう?
もう、どれだけの人間を殺めてきたのか
思い出す事も出来ぬのだから。
「哀絶さん、、、
、、もう、離して、、いただけないでしょうか」
その声に桜へ目を向けると、潤んだ瞳と赤みを帯びた頬。そして口元を手で覆っている桜の姿が目に入る。
傷口からの流血はもう止まっていた。
『……、嫌、、じゃ。
桜が離れて行くのは哀しい、、』
「、、、何処にも、行きませんよ。
ちゃんと皆さんの、、、哀絶さんの近くに居ります」
だからどうか。
カナシマナイデ。
桜の手が哀絶の頬に触れる。
「だから、大丈夫です」
『、、傍にいて、くりゃれ、、』
「そばに居ますよ」
桜の優しげな顔に哀絶はぎゅと一度力を入れて抱きしめた後やっと桜をその腕から解放した。
ーーーーーー
首元に巻かれた白い布。包帯を、と言いたいところではあったが、傷などあっという間に治ってしまう鬼にそう言うものは必要がなく、この場に存在しなかった。
そもそもこの屋敷というのも、たまに様式(間取り)を変えるという理解し難いもので、桜は早々に理解する事を諦めていた。
寝床が確保出来ればさして問題では無い。
8年前の自分だったらこんな生き方は出来なかっただろう。あの頃は両親の元で、血の匂いも知らずに温かく守られる様に生きていたから。
あの頃に戻りたいとは今は思わない。
そして
蝶屋敷に戻りたいとも思っていない。
だってあそこは、、、
『、、桜。』
呼ぶ声に振り向くと、いつも以上に哀しげな視線と出会う。しかし、呼んでおきながら彼は直ぐに桜から視線を逸らした。
気まずさがあるのは理解ができる。桜だって、流れた血が全て舐め取られたなど考えるだけで恥ずかしくて仕方なくなってしまう。
でも、昔の自分の姿と被った哀絶を桜は放っておく事は出来なかった。
桜の手がのび、その両手が触れるのは哀絶の頬。
『、、桜、?』
やっと出会う視線に、桜の手は頬から頭のほうへ移動すると、そのまま引き寄せ哀絶を抱きしめた。
哀絶の耳には桜の心臓の音が広がる。
「私は生きていますよ。
大丈夫です。
だから、そんな哀しい顔しないで下さい、、」
『怒っておらぬのか?
、、儂を嫌いになっておらぬのか?
儂は桜を傷付けたのじゃぞ?』
「血は止まりましたし、この通り元気です。
それで十分じゃ無いですか」
ーー、、桜は、、甘過ぎじゃ…
その血の味も、存在も。
拗らせていた独占欲は、いつの間にか萎んで
今は"大丈夫""傍にいる"という桜の言葉で
落ち着く事ができている。
でも、曝け出した言葉は全てが本物であるから桜が自らに堕ちて、染まって、離れられなくなれば良いと、そう思わずには居られない。
ただ、今はその気持ちをそっと胸の中にしまった。
「でも、また噛み付いたら、
嫌いになってしまうかもしれません」
『ならば儂も桜の色香に気をつけようぞ。』
「、、色香??」
哀絶は少し離れて桜を正面に見る
『桜は、ほんに甘いからのぅ』
言葉の後に触れる唇。
目を細めて笑うその顔は桜には
哀絶自身が
色香にみちて見えた。
【心の在りか/哀絶の場合】
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