鬼殺隊
『その傷…哀絶か、、』
首に巻かれた布を見るなり、積怒の眉間のシワが深まる。
今にも雷を落としに行くんじゃ無いかと肝を冷やしたが、
桜が話し始めるとその足は止まった。
「あ、あの時、、」
『あの時?』
「木の下にいた時、私は酷いこと言いました。
皆さんが、他の鬼と違う事は、、何となく分かってきた
つもりです…。だから、、ごめんなさい。」
『相容れない事なぞ最初から分かって居るわ。
腹立たしい。
いちいちくだらん事気にしてなど居れるか。
桜が儂らのもので、儂らの為に有る。
ただそれだけじゃ。』
一度止まった足は桜の元へやって来ると、
顎に手を添えて少しだけ上を向かせた。
『じゃが、他の鬼に喰われる位なら儂が桜を喰らう。
痛いと泣き喚こうが
血の一滴も残さずに喰ろうてやるわ』
僅か不敵な笑みが浮かび、背筋に冷たいものを感じたが、それもすぐに消え、顎に添えられていた手は首に巻かれた布をなぞり、傷の上で止まった。
まるで『痛むのか?』と問われているよう。
「、、血が出て驚きましたけど、
意外と早くに止まって、、」
喋りながら、哀絶に血を舐められた事を思い出してしまい語尾がどんどん萎んで、反対に頬が熱くなる。
『赤いぞ』
「、、あっ、、えっと、これは、、その、、
き、、聞かないで下さい、、、」
積怒から視線を逸らし、逃げ腰でいたが、
一度離れ再び伸びた手は腰に回され
桜の逃げ道は断たれてしまった。
『桜』
「、、!離して、ください。、、いやです、、」
一度積怒には唇を奪われている事もあり、
警戒心が湧き上がる。
『喰わぬは喰わぬ、
なれど、桜は甘い香りがする。
腹立たしいほどに。』
いつの間にか積怒は桜の傷口へ顔を埋めている。積怒の呼吸が肌を掠めてくすぐったい。
そのまま少しずつ上へ移動すると、頬に唇を寄せ少しだけ目元が柔らかくした。
『可楽が泣かせたくなる気も理解はできる。
どんな声で啼(な)くんじゃろうかと。
のぅ。桜?』
「………、、っ!!
な、な、何を言ってるんですか?!」
積怒の色濃い雰囲気に、意味を理解して背筋に冷たいものを感じた、、命の危険では無いものの、それはそれでよろしくない。身を捩って腕から抜け出すと、無意識に胸元の合わせを深くしていた。
『一緒にするな腹立たしい。
儂は他と違って分別あるわ』
慌てて離れた桜に積怒はそういうと、ずずいと距離を詰め、額に口付けて離れて行った。
「、、もう、何なんですか、、」
これでは気の休まる時がない。
ーー稀血、、か、、。
ん、、、他と違って、、?
少しばかり問題のある発言をされたような気がするものの、頭を振って深く考えてはいけないと打ち払う。すると、言い忘れていた事を思い出し、追って積怒の袖を掴んだ。
「あの、明日なのですが、、
日がある間、少し出掛けてきて良いですか、、
、、必ず、戻りますから…」
ーーーーーー
桜は15歳を迎える前に蝶屋敷での生活をやめていた。
やめたと言うよりは、
見兼ねた宇髄が助け舟を出したようなもの。
詠に続いて、カナエが死に、
しのぶの様子が変わってしまうと
桜の表情は雲がかかった。
目まぐるしく流れて行く世界は
一緒に流されて行く者よりも、
その流れを見守り続ける者の……
桜の心を置き去りにしている事になど
気を配ってはくれなかった。
《どうして私を置いて逝ってしまったのですか》
その言葉は雨に流されて、届くべきの人には届かなかった。
ただ一人、目の前にいた宇髄には、
その後の桜を見ろうとするほど
痛く悲しい言葉だった。
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