鬼殺隊2
桜は宇髄の口利きによって、
鬼殺隊が長年付き合いのある
薬屋の老夫婦の元で16歳を目前にした頃から
間借りして暮らしていた。
ここから蝶屋敷に通い働く形である。
年頃の娘ではあったが、18歳で鬼に喰われ死ぬと思っていた桜は物欲がなかった。
その為、荷物のすくない桜の部屋は
まるで空き部屋の様にすら見えたかもしれない。
唯一の小振りな引き出しを開けると、
手紙と懐刀(かいとう)が一本。
それは元々詠が使っていた日輪刀。それを形見分けとして形を変えて桜の元へやってきたものだった。
そして、手紙はもちろん詠の遺書。
何度も捨てようとしたそれはくしゃくしゃで、ところどころ破れている。
例えどんな言葉を尽くしていても、自害した詠の言葉は桜にとっては置いて逝くことへと弁明でしかない。
天涯孤独の闇夜から救っておいて、
光に目が慣れた頃に再び孤独へ突き落とす。
なんて残酷な話か。
こんな手紙一通より、ただ生きていて欲しかった。
ただそれだけだった。
懐刀を抜くと青みがかった白い頭身。
これと同じものがもう一本存在する。
それは現蝶屋敷主人であり、詠の弟子。
桜が長くを共に過ごしていた胡蝶しのぶの所だった。
桜はしのぶに思いを馳せる。
しのぶが蝶屋敷の主となった頃から、
彼女はカナエの口調を真似る様になり、
あの負けん気の強い口調が、影を顰(ひそ)めた。
そしてある日、
桜は藤の毒をしのぶが服用している事に気づいてしまった。
問い詰める桜にしのぶは、カナエを真似て微笑んだ。
桜にはどうしても理解ができなかった。
生きているのに、自らの存在を消すようなまねをして
仇を打つ為といえど、自ら死ぬことを前提に生きるなど、
意味が分からない。
自分(桜)には18歳で
否応無く訪れる"死"だというのに。と…
一緒に育ったしのぶは消えてしまった。
己自身に存在を潰されて。
桜にカナエの紛い物は要らない。
しのぶのままでいて欲しかった。
補い合うはずの片割れはもう居ない。
桜にとってはしのぶが自害したのと同意味だった。
ーー鬼殺隊の人たちはおかしい。
蝶屋敷で必死で手当てをしたのに、
また怪我をしてやって来る。
生きているならまだいい。
なぜ冷たくなって戻って来るのか。
家族を失って鬼殺隊に入った人が多いのは知っている。
それでも仇を打つと言いつつ、
桜には死に場所を探しているようにすら見えてしまった。
最悪、死にたいなら、死ねばいい、、
ただ、
「私の知らないところでやって……」
ーーでないと心が耐えられない、、、
大した量のない荷物を風呂敷一つに纏め
一言挨拶の手紙を残して部屋を出る。
死んだと言われるよりは老夫婦の気持ちは軽いだろう。
「ありがとうございました」
空になった部屋に染み込むように
その言葉は消えて行った。
ーーーーーー
「桜さん?」
しのぶがお館様に呼ばれていた。
直接の指令とあれば、何か大きな動きがあるという事で、
柱が動くならば怪我人も相当な数になると踏んでアオイは買い出しに出ていた。
そこで見かけた桜の姿。
アオイは桜の跡を追った。
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