懐刀2


桜の頬に血が落ちる。
ぽた、ぽた、ぽた…と頬を赤く塗る。

手には肉を裂くその感覚。

積怒の頸には青みがかった白い頭身が食い込んでいる。


ーー嫌だ。怖い。赤い。怖い。
  睨むその目が、、、



とても悲しい色をしていた。


今まで看取った人たちの顔が頭の中で通り過ぎていく、、
何度その瞼を下ろしたか分からない。
詠の死装束姿。上がる炎と、小さくなっていく体。


ーー死んじゃ嫌っ!!


桜は積怒の体を押し退けて、むしろ押し倒すと
自身の首に巻いてあった布を取り、懐刀を積怒の頸から抜き去った。傷口に布を押し当てる。

ーーこんなじゃ足りない、、
「哀絶さん!荷物こっちに持ってきてください!!」

桜の剣幕に驚きながら哀絶が運んで来た風呂敷から手拭いを抜き去ると、真っ赤に染まる布の上から押し当てる。

「止まって、、止まって、、止まって、、とまって、、、

 しんじゃ、、やだ、、」

今度は積怒の頬を桜の涙が濡らしていた。



『こんな傷で儂は死なんわ。
 腹立たしい。』

「、、へ?、、。」


一瞬にして桜の思考回路が周り出す。
ゆっくりと恐る恐る積怒の頸に押し当てている布をめくっていくと、そこに傷は


無かった。

もちろん。


彼らは"鬼"なのだから。


そして、積怒と目が合う。
何故か彼の視線は下にあり、桜が見下ろしている。
それも無理はない。
積怒の体を押し倒していたのだから。

ーーなっ、、なんて事を、、


言葉として書き表せない悲鳴をあげて、
桜は積怒の上から逃げていく。
雰囲気は違えど、今までの全てを見ており、
更に積怒と良く似た顔立ちの可楽と哀絶の近くに行く訳にもいかず、桜は部屋の角に逃げていくと壁を見つめて背を丸くした。



『桜ー。甘い匂いの青い林檎を見つけたんじゃが、
 これは、、、くえる、、の、、か、え??

 何をして居るんじゃ??』
今までのやりとりを何も知らない空喜が皆の様子を見て首を傾げる。
可楽を見ても、哀絶を見ても、その視線はそらされた。

ーー儂、戻る時を間違えたか?!?

『の、、のぅ、桜?
 林檎がな、、』

積怒の所へ行くというのは空喜の選択肢にはなく、
壁と向かい合う桜の横に座りその顔を覗き込むと、
頬に血がついている。

ーー顔に傷とな!!
  奴らは一体桜に何をしたんじゃ!!

そうは思っても、桜の血が稀血であり、
美味である事を知っている空喜は桜の頬に唇を寄せる。


ペロッ。

「、、っ!!、、」
『ん?これは桜の血ではない、、美味くない。
 何故じゃ!
 おい、哀絶よ。この血、不味いぞ?』


知らないと言うのは、なんと恐ろしい事なのでしょうか。

哀絶の哀れみの表情に空喜が再び首を傾げている間に
その背後には怒りに満ち満ちた積怒が近づいておりました。
可楽はちゃっかりと手拭いを水で濡らし桜の元へ向かいます。


この件に関して何の罪もない筈の空喜でありますので、
どうか無事に積怒の怒りが収まる事を願うばかりです。


ーーーーーー


『助けてくれぬとは!
 主ら"鬼でなし"じゃ!!

 そんな奴らに桜は渡さん!!
 儂は怒って居る!!』
 
酷い目にあった空喜は、青林檎を頬張る桜に縋りつき続け、
可楽と哀絶を『寄るでない!』と威嚇し続けたのでした。
 


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