懐刀3


『桜が怒っておる、、
 やはりあの一件よのぅ、、
 哀しいほどに、笑いかけてくれぬ』
『あれから近寄れるのは空喜だけじゃしのぅ
 面白ろう無いっ!!
 哀絶ーなんとかしてくりゃれー
 桜を抱きしめとうて仕方のうなってしまう』
『、、発言が危ないゆえ、
 儂だって可楽を桜に近づけたこうない、、』


離れた場所で桜と空喜が、
冬に向けて乾物を作ろうと作業をしていた。
二人で楽しそうに笑い合う姿はすごく羨ましい。
『なぁ、儂らよう考えると何も悪い事してなく無いか?
 全ては積怒のやつじゃろ?
 あやつは何をしておるのじゃ?』
『儂が知る訳があるまい、、、』

ため息が2つ風に吹かれて消えていった。


ーーーーーー

作業の進行具合に、ふぅと一息をつく。
これを日が登ったのちに外に並べれば
きっと美味しい乾物が出来上がるだろう。
秋は山の味覚に助けられているが、冬は山も眠りにつく為
今のうちに準備をしなければ冬を越す事はできない。
せめてもの救いなのは、一人分の蓄えで事足り、その割には手伝ってくれる手があるという事だろう。

『のぅ。桜は怒っているのか?』
「……。」
『儂は桜を独り占めできて喜ばしい限りなのじゃが、
 他のが近づいても難しい顔をするじゃろう?』

「・・・積怒さんには、、思うところがあります・・・」
『、、、"怒っている"ではなくてかぇ?、、』
「何なんでしょうね、、氷の形見を持っている事が
 あんなにも否定される事だとは思っていなくて、、
 ちょっと戸惑ってしまった、、といいますか…
 なんか色々恥ずかしかったと言いますか、、」

一番心に引っかかっているのは積怒の言葉。

《遅かれ早かれ、儂らを斬るつもりじゃろうが!!》


「、、、、あの、、
 空喜さんはどう思ったんですか?」
『懐刀のことか?』

あの後、誰も触れようとしなかった
懐刀を拾い上げたのは空喜だった為、
彼も懐刀の存在に気付いている。

『、、んー。桜に儂らは斬れん』
「斬れるか、斬れないかじゃなくてですね、
 刃を向けるかもしれないじゃないですか」
『桜がか?、、無い無い。
 そのつもりなら遠にやっておったじゃろ?
 鬼殺の刀じゃのうても、桜は少なくとも包丁
 は使えた訳だしのぅ』

桜の表情から不安の色は薄くなっていき、
どこか嬉しそうな色が強くなっていく。
その変化が空喜にも嬉しい。

『本当は積怒の奴も分かって居る筈じゃよ。

 って、、あ"ーー何故儂が、
 積怒の肩を持ってやらねばならんのかのぅ。
 儂は被害者じゃぞ。』
頬を膨らまして不満を示すものの、
桜はそれを見て笑っていた。
桜の笑顔は膨らんだ頬を萎ませる。

『儂はギスギスして過ごすより、皆でやいのやいのして
 過ごす方が喜ばしいからのぅ』
「そうですね。
 私もその方が、、喜ばしいと思います」

空喜を真似て話す桜に愛しさが溢れて
その体を抱き寄せた。
片腕はそのままに桜の手を取り、
絡ませ、手に唇を寄せる。

触っていたい。触ってほしい。
いつも。いつまでも。


もしも桜に討たれるのならそれでもいいと空喜は思う。
氷の剣士の剣捌きはまるで舞う様で、美しかった。
そんな美しい、それも桜の舞を見て死ぬのなら
それもまた"喜ばしい"ことかもしれない。と。
 


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