甘いモノ2
『蜂蜜とは本に甘いのかのぅ』
"主様が言うならきっと"と思う可楽であったが、桜の虫嫌いを思うと、本当にそれでよかったのか少しもやもやしてくる。
『面白い案だとは思うておったが、
桜を知らぬ主様に聞いたのは間違いだったか?』
桜と仲直りをしたい可楽は、どうしたら元のように桜が微笑んでくれるか考えるも、思い浮かぶ事はなく、自分達の本体に相談を持ちかけた。
人間だった頃は妻を何人か転々としていた訳で、子供もあった。つまり、それなりに女性の心を掴む事ができる人間だったと言う事だ。
その妻、子供がどうなったかは本日の論点ではない為、ここでは語らないする事とする。
そして本体=主様が提案したのが贈り物。
しかし、この辺りで収穫できる果物、野菜などは既に空喜が手当たり次第桜に与えていて、もの珍しい物は無い。
そして、襲った家で見た事のあるキラキラした石の類(たぐい)は、桜が身につければ美しいかもしれないが、思い浮かぶ桜の姿とはどこかズレている気がする。
ならば自分達が好きな物をと、主様に聞かれたが、答えは『桜』と言う始末。
桜に桜をあげることは不可能である。
そこで浮かんだのが桜と同じ様に"甘い物"と言う訳だ。
果物でもなく、野菜でもなく、更に桜が嫌うと思われる"殺傷"に繋がるものも、"現場からいただいてきた物"つまり盗ったものも除外。
主様から搾り出された答えが"蜂蜜"と言う訳だ。
蜂蜜も"とる"ではあるが、少々分けてもらう感覚で、
許容範囲とみなして貰えるだろう。
しかし蜜蜂の巣など簡単に見つかるものなのだろうか、、?
ーーーーーー
心臓の音が耳から聞こえる気がして、
桜は目眩がする様だった。
虫がいると思うだけで涙も湧いてくる。
助けてくれる人は今は誰も居らず、
だからと言って、大声で助けを呼ぶのも憚られた。
《儂らは怖がらぬのにそんな虫が怖いのか?
喰われるわけでもなしに。》
ーーそう!そうなの!怖いの!!
喰べられる訳じゃないのは分かってるけど
怖いものは怖いの!!
自分の記憶と脳内会話など普段ならやらない事でも、今は一人で、どうにかこの心を鎮めなければと思えば大した事では無い。
虫は寒いと活動を鈍化させるという、、
ーー氷の呼吸で鈍らせて、、
とりあえず何か被せて誰か戻ってくるのを待とう…。
空間的に冷やすつもりで呼吸を使えば
どこに居ても有効だろうし、、
最悪、塊をぶつけるつもりでいけば、、
荷物から懐刀を取り出してくると「鬼殺隊は嫌い」や
「懐刀なんて残して」と思っているのにそれに
頼ろうとする自分の事が醜く思えて心に影が差した。
冷たい心は空気を冷やす。
詠の思い詰めたような顔が浮かぶ。
ーー私が氷の呼吸に適性が有ったのは必然だったのかも
いつだってどこか冷めた自分が居る。
カサ、、カサカサ
再びのその音に、懐刀を構えると集中して呼吸を整える。
鬼殺隊士では無く、日常的に鍛錬などしていたわけではない桜は、意識して呼吸を整えないと
型を上手く扱う事は出来ないのだった。
ーー氷の呼吸 参の型
『ヒィィィィ!!
やめてくれぇ
いぢめないでくれぇ
儂は虫ではおらぬぅぅ』
「・・・・?」
小さいけれど確かに聞こえた声に耳を澄ます。
ーー喋る虫?ま、、まさか、ね…
『虫と同じにされるなど、
儂を可哀想だとは思わんのか
おなごは怖ろしい、怖ろしい、、』
すると、乾物を纏めた袋のかげに此方を伺う姿が震えていた。
虫ではないと判りさえすれば、近づく事も怖くはない。
懐刀を床に置き、桜は1mほど離れた位置に膝をついた。
それは積怒の着物によく似た立涌に剣花菱柄を着た
小さな、小さな老人。
ーー鬼さん、だ、、。
『ヒィィィ!
助けてくれぇ、、』
覗き込むようにして手を差し出した。
「虫扱いしてごめんなさい。
、、仲直り、して貰えませんか?
今は皆、出掛けて1人心細かったんです」
そうだ。お茶を出しましょう。
荷物の中にお茶の葉が残っていたはずです。
お茶菓子代わりに、干し芋をお出しして、、
「お話相手になってもらえませんか?」
『主は儂をいぢめない、、かぇ?』
「虐めませんよ」
『鬼でもか?』
「鬼でもです。
、、と言いますか、
私、鬼さん達に優しくして貰っているので
虐めたりしたら罰当たりです」
桜が微笑むと、その小さな老人は
背中を丸めたままおずおずと桜の前へと姿を現した。
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