甘いモノ3
夜も折り返しに入った頃、スパンと大きな音を立てて襖は開かれた。
その音に揃ってビクッと肩をゆらした桜と空喜。言葉にしないながらも迷惑そうな視線を向ける哀絶。
そして、『ひぃぃぃ』と悲鳴が上がり、最後の悲鳴に可楽は目を丸くした。
『主様まで居るとは、一体どんな奇術の類じゃ?』
『喜ばしいじゃろ?儂らも戻って驚いたんじゃ!
怖がりの主様が桜と茶を挟んでおってな!!』
気分の上がった空喜がバサバサ羽をばたつかせると、主様がまた悲鳴を上げた。
『辞めぬか空喜。主様が哀しんで居る』
『ありゃ?』
『空喜が、いぢめるのじゃ、、
儂はもう終わりじゃ、
儂は可哀想なんじゃ、、』
桜は座布団から落ちそうになっているのを掬い上げると、手の上で縮こまる主様に笑いかける。
「主様、空喜さんは虐めたのではなくて、
主様とこうしている事が嬉しくて、すこし気分が
浮かれてしまっただけですから、
大丈夫ですよ。
思ってもらえて幸せですね」
微笑む桜に今度はもじもじ視線を彷徨わせ始めると、空喜が主様の着物を爪に引っ掛け持ち上げた。自分の頭の上にポテっと乗せて『これで安心じゃ』と笑う。
なんだか、主様の登場で普通に話の輪に入る事に成功してしまったが、可楽は廊下に置いたままの贈り物に気持ちがそわそわしてくる。
『桜、、
「やっと可楽さんと話す事が出来ました」
呼んだ声は、丁度桜の声と被り続きを口にする事は出来なかったが、その言葉は驚きと共にそわそわをわくわくに塗り替えていく。
自分の為に紡がれる言葉はどんなものか、早く、早くと続きが聞きたくなる。
「積怒さんから庇おうとして下さったのに、
避けてしまって、ごめんなさい。
ダメですね。可楽さんは何も悪いことしてないのに…
あの、、元通りに、、戻れますか、、?」
自信が無いのか自分を見上げてくる桜の姿が
可楽には愛しくて仕方がない。
『桜ー!!これで仲直りじゃ!』
桜に飛び掛かるように抱き付いた。
『この抱き心地が何よりよ。』
「ちょっ、、何を言っているんですか?!
は、離してくださいっ!」
『困って居る桜も、楽しくて良い』
「楽しまないでください!近いです!」
『のう、、、哀絶、、可楽が変態なんじゃが、、
流石に桜を助けるべきなのではないか、、』
『儂もそんな気がして居る。
、、先に主様を置いてからじゃ、、』
二人は顔を見合わせて頷いた。
ーーーーーー
「蜂蜜、、一体どこから、、」
『盗ってきた訳ではないぞ!
なんと、面白い事に人を助けてしもうた』
人を助ける事は面白いと称する事でもないし、
"助けてしまった"と続けるべき言葉ではないのだが、人ではない彼らには当てはまる言葉なのかもしれない。
なんでも、熊が蜂蜜を好むという事を主様から聞いていた可楽は、熊を探して追っていた。そしてその熊は木箱を運ぶ人間達にたどり着く。熊は人間を追いかけ始め、木箱から蜂が飛び出すものだから、もしやと熊を蹴散らすと、何の偶然かその人間はやはり養蜂家で、鬼ではなく天狗だと有難がられ、御礼にと蜂蜜を一枠貰ったのだという。
『自力で見つけたモノでは無いが、
儂なりに頑張ったんじゃ。
人も喰ろうては居らん。
偉いじゃろ?』
人を殺して全て奪って来る事も出来たが、それをしなかったのは桜にそんな血生臭い物を贈りたくはなかったから。
もし熊が襲っていたのが養蜂家ではなかったらあの人間達はどうなっていたか定かでは無いが、天狗と有難がられらのも気分は悪くない。
喰わない事をこれからも選ぶという事は無いにしても、なかなか面白い出来事だったと可楽は思う。
「はい。嬉しいです」
立派な巣蜜を前に桜の目は輝き、頬が赤みを帯びている。
贈り物で思った以上に愛らしい姿を見る事が出来、可楽は大いに満足していた。
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