甘いモノ4
『何故、哀絶が桜にくっついて居る』
『可楽は危険じゃ。
桜になにかあってからでは哀しくて仕方のぅなる』
『よく言うわ!その楽しそうな立ち位置、儂に寄越せい』
『そんな事をし続けておると、大変なのは桜ぞ?
のぅ?仲良う方が喜ばしいよのぅ桜』
「、、ぇ、、ええ。まぁ、、その方がいいですよね、、」
そう言いながらも空喜は桜の腕にくっついている。
桜はろくに身動きも取れずに困り気味である。
『ヒィィィィ。
可楽ぅ、、空喜ぃ、、。助けてくれぇぇ』
『主様?』
『虫じゃ、、虫ぃ、』
『、、、主様が桜のような事を言うて居るぞ。
可楽、、』
『そうじゃな空喜。桜に感化されたかの?』
「えぇ!、、私ですか?!」
カカッと笑い声を残して2人は主様の方へ向かっていった。
「哀絶さんは良いのですか?」
『儂は呼ばれておらぬから良いんじゃ、、』
「あの…。そろそろ離してもらえると
有難いのですけど、、」
『桜は儂が嫌か?、、』
桜の顔を覗き込むように問うその視線は「困る」とは言えない困り顔で本当に狡いと思う。
嫌ではないのは本当にしても、そんな事を言わせた罪悪感すら湧いてきそうになるのだ。
桜が嫌と言わないのは分かっていたが、それでも拒絶されない事は哀しさを薄くする。
頬に擦り寄って、肩に頭を乗せる。
しかしそこから見えるのは、
ーー積怒が付けた痣じゃ、、
胸の奥がザワザワと騒ぐ。
前に自分が齧り付いた跡はほとんど目立たなくなったと言うのに、その痣は尚もそこに存在感を放って刻まれていた。
ーー、、消えて仕舞えば良いのに、、
歯を立てようとして、ふと蘇る桜の声。
《でも、また噛み付いたら、
嫌いになってしまうかもしれません》
ーー嫌われるのは嫌じゃ、、。
じゃから、これ位は許してくりゃれ。
せめてもの悪足掻きにと、まだ少しだけ残る噛み跡を辿るように唇を落とし、最後に肌に赤い痕を残す。
「くすぐったいっ。、、です」
桜は恥ずかしかったのか、両手で顔を覆っていた。しかし、髪の毛の隙間から見えていた耳は真っ赤である。
ーー愛らしい。
哀絶は桜の髪に触れ、耳にかけると耳たぶを口に含む。
「ひゃっ!!」
声と共に、飛び上がった桜は哀絶の腕から抜け出した。
逃げられた桜に首を傾げる哀絶。
「な、舐めましたね、、耳を、、」
『齧り付いてはおらぬよ?』
頬をますます染めて、返事に困惑している姿に満足して、哀絶はもう一度桜をぎゅっと抱きしめると、更に耳元で『愛らしい』と呟いて桜から離れ、まだてんやわんやしている主様の方へ向かって行った。
「、、、もーー、、」
『何じゃ、牛の真似かぇ?』
「うわっ、、か、、可楽さん、、」
桜の背後から現れた可楽は、
哀絶が桜を離した事にニコニコしている。
『桜。
齧り付いてはおらぬよ? と
儂もやって良いかえ?』
「っ!!、、よ、良くないですっ」
桜の反応を楽しんでいる可楽は笑みを深めた。
『ずるいのぅ哀絶はー。甘やかされておる。
そうじゃ、蜂蜜とやらはそんなにも甘い物なのか?』
「はい。本当に甘くて、
食べるのが勿体無くなってしまいます」
『ならば、儂らにとっての桜みたいじゃな』
「・・・・?」
一度味を知れば、またその味をもとめてしまう。
甘くて、甘くて一口のつもりが、ついもう一口と味わいたくなる。
どんどん欲が深くなって行く。
『一口もろうても良いか?』
「・・・?良いですよ?」
にこにこ顔の可楽は匙で巣蜜を欠くと、
桜の方へと差し出した。
「あの、、可楽さんが食べるんですよね?
あ、一緒に、とかですか?
といいますか、
食べさせてもらうのは、、
少々抵抗があると言いますか、
すごく、恥ずかしいんですけど、、」
『儂は気にしない故、安心せぇ。』
どういう理屈かと、言いたくもなったのだが、
差し出される琥珀色の蜂蜜が、匙の傾きにとろりとこぼれ落ちそうになっていた。
可楽が自分の為に見つけてくれた蜂蜜を床に落として無駄になどしてはいけないと、意を決して可楽の持つ匙を口に含んだ。
とろりとした甘さの中にホロっと崩れる巣の欠片。
広がる甘さに目を細め頬が緩んだ。
離れた匙と入れ替わる様に可楽手が桜の頬を包む。
ーーえ?、、ま、まさか、、
近づく可楽の顔に、桜は焦って目と口をキュッと閉じるも、耳の前の辺りで頬を包んだ指先に少し力が入ると、桜の抵抗は虚しく口がやんわりと開いてしまう。
触れた唇の間を割って押し入る舌は桜の口から巣の欠片と甘い蜜を奪っていく。
「、んー」
侵入を許してしまい、最初こそ握った手で可楽の胸を打ち抵抗を示していたが、離してもらえず、ついに息が出来ずに苦しくなると頭がぼんやりとして、腕にしがみつき無意識に爪を立てていた。
異変に気づいて可楽が口を離すと、崩れ落ちるようにへたり込み、桜は肩で息を始める。
可楽はやりすぎてしまったと少しだけ罪悪感が浮かんだが、桜の赤くなった顔に愛しさが込み上げた。しかし、また桜に距離を置かれては今度こそ気が狂いそうで、抱きしめたい気持ちを握りしめて耐える。
「、、もう、、なんなん、、ですか、、」
『何とは?何じゃ?』
「、、こう言う事は、、好きな人に、、するものです、、
楽しいからでは、、私の、身が持ちません、、」
『ならば何の問題もない。
儂は桜が好きじゃからの』
「・・・・・。
、、、、、な、な、何をとち狂った事を!」
『ひどい言い草じゃ』
伸びた可楽の手は顔にかかる桜の髪を端へと避け、頬に添えられる。
『ずっと言っておろう?
桜は愛らしいとな』
可楽は再び笑って見せた。
『どさくさに紛れて何をやって居るんじゃ可楽。
腑抜けで居るのは積怒が悪いが、桜の事に関しては、
抜け駆けは許されんぞ』
『何故空喜はそんなに自信有り気なんじゃ?』
『カカッ!どう見ても、儂が一番好かれておろう?』
『桜、、そうなのか、、誠ならば儂は哀しい、、』
「いっ、、一体何の話ですか??」
『桜が誰を一番好いて居るのかという話じゃて』
「何処からそんな話になっていたんですか、、?
・・・・・・・・。
あれー。主様は奥に戻られたんですか?」
『戻ったには、戻ったが、、
明らかに桜、話を変えおったぞ』
気まずくなった桜はプイと三鬼に背を向けると
片付けをするべく逃げ出した。
ーー……私の気持ち、、?
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