拗れた気持ち


『腹立たしい!
 コレを持ち込んだという事は遅かれ早かれ
 儂らを斬るつもりじゃろうが!!

 殺せるものなら、殺してみるが良かろう』

握らされた懐刀が、積怒の頸へ沈んで行く。
肉を断つ感覚と、懐刀を伝う血が手に纏わりつきドロドロとその感覚を残す、、


『仇である儂らが憎いのう、、?

        桜   』


二つの目玉がこちらを睨みつけていた。


ーーーーーー


「っ!、、、、夢、、」

明るい間に、明るい場所で眠ると本当にろくな夢を見ない。

確かにあの出来事は胸の奥でつっかえている記憶ではあるが、夢に見るにはまだ解決したわけでもなく、気持ちを何処へ向ければ良いのか分からない。

誤解を解きたくて、話をしたくても、積怒に避けられている。
哀絶には、積怒の言う事など気にするなと言われたが、信じて貰えなかったというのは思っていた以上に心を抉っていた。

ーー儂らのものと言いながら
  どうして信じてくれないの?
  どうして話を聞いてくれないの?
  どうして姿も見せてくれないの?
  そんなに嫌なら殺して仕舞えば良いじゃない
  鬼なんだから、喰ってしまえば良いじゃない
  もう要らないと言ってくれれば良いじゃない……

沸々と沸き上がる負の感情は、"見てもいない"血塗られた生家を脳内に浮かび上がらせる。
家族で囲んだ食卓も、お手伝いさんが髪を結ってくれた鏡台も、洋長椅子も、呼ぶ声にスカートを翻(ひるがえ)したあの窓辺も、、すべてを赤く染め"両親と使用人の仇"という事実を見せつける。

ーー私を独りにした、、
黒い気持ちがこぼれ落ちる。

「、、きらい。…鬼なんて嫌いよ、、
 私の大切を奪った、、、大嫌い、、」

口にしたものの、どこか腑に落ちない。
ーー鬼がきらい?……何だか違う、、

そうは思っても"嫌い"の感情が消えない、、

ーーどうしてみんなと一緒に殺してくれなかったの?
  どうして生きているの?

「、、きらい、、きらい
 嫌い、嫌い、嫌い、嫌い

 一人生きている、、私が一番嫌い、、」

何度も呟く。
好意を向けられる度に、心のどこかで私さえ居なければ両親は命を落とさなかったのではないかと、、若くは私一人が先に見つかっていれば
両親たちに手を出すことはなかったのではないかと思ってしまう。自分を否定する気持ちは与えられた優しさですら暗く塗り潰す。
苦しい胸の内を覆ってしまうように。

胸が痛むのは鬼のもとに居るから

そう、自分に結論づけた。


ーーーーーー

『じゃから、積怒よ。桜に刀など使えん。
 お主も本当は分かって居るんじゃろ?
 本に桜が儂らを斬るつもりなら何故あの時
 血を止めようと必死になったんじゃ。
 あの剣幕も、あの涙も演技じゃったと言うんか?』
『五月蝿い、飽きもせず同じ事を言いに来るな。
 可楽は儂を苛々させたいのか』
『苛々させられたくないのなら桜と話をせぇ。
 あれ以来、時々無理にでも笑おうとして居るぞ…
 あのままで良い訳があるまい…。

 、、羨ましいのぅ。
 今回に限っては哀絶も空喜も、もちろん儂も
 主が桜と話すつもりなら邪魔をせぬ。

 それが桜の為になるなら楽しくて仕方ないからの。』
ひらひらと後ろ手を振りながら、可楽は積怒の元から去っていった。


ーー面倒だ。何故思う様にならない。
  何がいけない?
  どこから狂った?

  最初から狂って居ったのやもしれん。
  人間を殺さずに囲うなど、、

  それでも、欲しいと思うた
  もしも、8年の後、興が冷めておったら
  ただの稀血。
  喰えば良い。ただの餌と。

  なれど、、

  泣くも、怯えるも、儚さも、美しい。
  笑えば、頬を染めれば、尚の事。

  最初から、

  最初から、

  特別に儂らを捉えて離さない。

  居なかった事には今更出来ようも無い。

  腹立たしい。腹立たしい。
  何かに縛られているなど、

  儂は儂が、、腹立たしい。
 


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