拗れた気持ち2


まだ太陽が空にいる。
だから光の届く桜の元には近寄る事が出来ない。
それでも、話をする事はできる。
積怒自身も桜から離れている事に限界を感じていた。

本当は分かっていた。
あの懐刀に使っている形跡など無いことに。
それでも試す様な事をした。

信じたかったから。信じさせて欲しかったから。

ひどく傷ついた顔を見て、すごく後悔をした。
ーー何故自分はこんなにも不器用なのだろう。
  怒りの感情から生まれた存在故か、、


桜の居る部屋の襖に手をかけると
ふわり甘い匂いがした。

『、、、、、?』
ーーそんな筈はない、、しかしこれは、、
  桜の血の匂い、、

襖を開いた先に見える姿。光の中に座り込む後ろ姿。

『何をして居る、、』
「私は、、、生きているのでしょうか?と。」
『おかしな事を言うな腹立たしい。
 生きて居るじゃろうが』
「、、はい。赤い血が流れておりました、、」

『・・・・・・・』
「では、、死ぬにはどうしたら良いのでしょう?
 鬼の筈の皆さんは私を殺してはくれません。
 心の臓を突けば死ねます。
 喉を突けば、、
 首の血管を断ち切れば死ねます。
 たくさんの血が流れてしまえば、、

 死に方なら知っています。
 人を生かす方法を知っていれば、反対も然りです。

 でも、私にはその勇気がありません。
 手首を切り付けるだけでも、
 どれだけの時間を要したか分かりません。」

背を向けて座っていた桜が積怒の方を見て立ち上がった。
手首から赤い線が走っている。
血が流れ続けているわけではない様だが、それでも白い肌に線を引く赤は、真っ赤なリボンをかけた様にも見えた。
ゴクリと鳴る喉。
桜が立っているのが光の中でなければ、その手を取って唇を寄せていた事だろう。

「、、、私は、私が嫌いです。
 あの日一人だけ生き残り、
 皆が命懸けの場に身を置いておきながら
 私だけそれから逃げて、そうして散っていった人達も
 受け入れられずにいました。
 かと思えば、
 仇の筈の鬼達に大切にされて笑っている。
 なんて醜い生き物なんでしょう?
 嫌いです。いなくなってしまえばいい。
 死んでしまえばいいのに、、、
 優しさにつけ込んで、良しとして、、汚い、、
 私なんていなくなってしまえば良いのに!!

 もう嫌い!全部嫌い!
 もう嫌!嫌い、嫌い、
 人も鬼も貴方も私も大嫌いよ!
 大嫌い!大嫌いなの!!
 私なんて早く死んでしま
『黙れ!!』

「っ!!・・・・・」

『腹立たしい事この上無いわ!
 儂や、儂らを嫌いと言うならば好きなだけ嫌えば良い。

 なれど!!
 儂らの桜の事を嫌いや、醜い、汚い、その上死ねと?
 桜自身であっても言って良い事と悪い事が有るとは
 思わんのか?その言葉は桜を大切にと思って居る
 全ての者を愚弄する言葉じゃぞ?』

「何でも、、良いです
 私を信じてもらえないならどうでもいいんです。
 積怒さんも結局は稀血の流れるこの体さえ有れば
 それで十分なのでしょう?
 食糧に情をかけて何になるって言うんですか?
 美味しくなりでもするんですか?

 でも、もう何でもいいです。
 だって皆、遅かれ早かれ死んでいくんです。
 いつだって、、私を置いて逝ってしまう、、
 私はもう独り残されるなんて嫌。
 もう疲れてしまいました…」

その手には懐刀。
震えながらも首元へゆっくりと登っていく…
実際はゆっくりとではなかったのかもしれない。
それでも、積怒の目にその動きはゆっくりとして見えた。
『辞めよ』と伸ばした手は一瞬で刺す様な痛みが走る。
直接ではない差し込む光であっても、前とは違って傾いた残り日ではなく、空で輝く陽光は鬼の肌を焼く。

ーー稀血など、最初から関係が無かった、、
  桜だから、
  桜だったから、
  欲しいと望んだ…

積怒は錫杖を桜に投げ付けていた。
投げた錫杖は桜が手に持つ懐刀を弾き飛ばし、ガチャガチャと音を立てて床へと落ちる。

ーー雲が掛かれば、、

しかし願いは届かない。
日頃の行ないというものを呪いたくなる。

桜は表情も変えずに落ちた懐刀を拾うと、積怒がいる襖とは別の所から廊下へと進み始めた。
積怒は嫌な予感がした。
桜が進む先には外に出られる窓がある…

投げてしまった錫杖は光の中で拾う事も叶わず、
桜はどんどん進んでいってしまう。

日はまだその姿を隠そうとはしてくれなかった。
 


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