拗れた気持ち4
刀傷とは違って、陽の光による火傷は直ぐには癒えていきそうに無い。
人ならば何を置いても冷さなければいけないため、同じように水を汲んでこようと、桜は井戸へ向かいたいと積怒に告げたのだが、一向に腕を緩めるつもりはないようだ。
「、、血を飲めば傷は癒えますか?」
『、、試した事など無い。
、、、分かりようも無い』
桜を抱きしめているというより、積怒は桜にもたれ掛かっているという方が正しかったかもしれない。
まだ陽は高く、木の陰から出られそうも無かった。
つい先ほど日の傾きに合わせて僅かに場所を移動したばかりだ。日陰と言えど、陰は小さい上に光は近くにあり、炙られ続けているようなものだろう、、
ーー私のせいで負った傷、、
だったら尚更私にできる事を、、
「、、じゃあ、、試してください。
火傷だらけ(これ)では見ているのが辛いです。
痛いんです。私が。
何も出来ないのは辛いです。
私のせいでできた火傷だから、、」
涙が込み上げてしまう。
何度謝っても足りなくて、普段よりぐったりして見えるのは確かで、その体を支えたくなるのに、痛んだ肌は触れるのにも憚られて、、
なのにずっと守るように抱きしめ続ける積怒。
「お願い……ですから、、、」
『傷つける事に変わりない。
痛いと泣く事になっても知らんぞ。』
「それくらい、我慢できます、、
泣きませんから」
『既に泣いて居るじゃろが』
折れる様子の無い桜に積怒は根負けした。
ーーーーーー
きっと痛かろう。
傷を作る必要など無いのにその肌に牙を立てたのだから。
本当はそんな事はしたくなかった。
それでも"しない"という選択を桜は用意してくれなかった。桜がこんなにも頑固な性格だったとは積怒は少々驚いている。
肌をジリジリと刺し続けるような痛みがほぼ消えた。
完全に癒えたわけではないが、稀血と言えど、
ここまで即効性が有るとは思ってもいなかった。
それでもやはりーー
『腹立たしい、、』
愛しい人を傷付けたという事実が。
「、、、ふふっ、、」
笑い声に視線が交わると、その顔はヘラっとやわらかく微笑んだ。
『何を笑って居る?!』
「私は思っていた以上に、皆さんに助けられていて、
そんな皆さんを、、信じていたみたいです」
積怒は桜の言葉の意図が分からず眉間の皺を深くした。
「鬼が稀血に引かれるのか、
稀血が鬼を引き寄せるのか、、
私がこの血で狂わせて居るのかも
しれないじゃないですか。
私が差し出したのだから文句はありませんが、
稀血で惑わして"喰い潰させていた"かも知れません。
それでも、積怒さんは積怒さんのままで居てくれた。
火傷も治りきった訳じゃないのに
私を気にして加減をしてくれている。
なんだか嬉しくなってしまいました。」
その表情は積怒の愛しさを膨らませる。
「私、詠さん、、氷の剣士が自害して、
要らなくなってしまったんだなって、、
あの人の生きる理由にはならなかったんだなって
私はその程度の人間なんだって。
思ったんですよね。
その後も、当たり前のように次々誰かが死んで、、、
皆、命を軽く考えすぎなんですよ。
"私が死んでも、意志は繋いでくれる"って。
何言ってるんですか、、
格好つけるのも大概にして下さいよ
残される方の身にもなって下さいよ。
鬼を倒す。その為に死ぬ?
後を託す人も育てて、、
おかしいんですよ。
死ぬという選択が出来るなら、、
生きるという選択が出来るはずでしょう?
人の幸せを願うなら、何故自分が居ないとダメだと
思ってくれないんでしょうか。
何故"一緒に幸せ"な道を探してくれないのでしょうか
懐刀一本残して、
私にどう幸せになれというのでしょうね?
誰に聞いても、誰も答えてくれないんです。
皆、幸せのなり方なんて考えていないから。
私は鬼殺隊が、、多分、嫌いです。
生きる事を手放す彼らが嫌いなんです。」
桜は目からボロボロと涙を流して泣いていた。
形見分けの懐刀など桜は要らなかった。
それでも手放す事はできなくて、
それはまるで呪いの様にすら見える。
『儂は今、鬼殺隊(奴ら)に桜を連れ帰らせた
8年前の己が腹立たしい。
美しく成長して行く様を見る選択をしなかった事、
そして、その選択がずっと
桜に苦行を強いていた事に
腹が立って、腹が立って仕方がない』
涙を流し続ける桜を積怒は包み込むように抱き締め直す。
『、、すまなかった。
頸を切りつけさせた事、、』
ビクッと肩を揺らしたが、腕の中で桜は頷いていた。
きっと"あれ"も桜の心を傷つける行いだった。
それでも、彼女はこうして許してくれる。
だから本当にすまなかったと思うのだ。
彼女の優しさに甘えている自身が腹立たしい。
抱き締めた片方の手で頭を撫で髪をすく。
何度も。何度も。
『儂らと共に在れば良い
何せ、桜は儂らのものじゃからな』
泣き喚く人間など苛々の対象でしか無いはずなのに
桜の涙も嗚咽も全てが苛々を治めていく。
ーー桜、、共に在れ。
沢山喜んで、楽しんで、時には泣いて、怒って、
儂らにその愛らしい姿を見せい。
影が伸び、陽が沈み始めていた。
二人の時間はもう少し、、、。
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