月の下


「ケホッ、、ケホッ、、」
乾燥した空気を小さく咳をしてやりすごす
『すっかりと寒くなってしもうたのぅ
 雪が降れば寒いなりにも面白いんじゃがの』
「、、雪降るんですか?」
『山の中故な。たまに空喜が埋まっておるぞ!』
「埋まっ?!え?大丈夫なんですか?!
 ただでさえ薄着、、、。
 、、あれ?、、着物着てないですよね?!」
桜を見て可楽が、カカカッと笑い声を上げる。2人は窓辺で外を眺めながら話をしていた。桜の元に哀絶が上掛けと湯呑みを持って現れた。
湯呑みからは湯気と一緒に甘い香りが立ち上っている。
物言いたげな顔だが、その口から言葉はない。
「哀絶さん。大丈夫ですよ?」

立ちくらみを起こして以来、
哀絶の心配性に火がついてしまった。
今もそれが原因の行動だろう。
湯呑みをおくと、哀絶は広げた上掛けを桜の肩へのせる。ふわりと掛かる重さに続いて回される腕。そして肩に顎が乗る。
『桜の大丈夫は大丈夫でない。
 人間は弱い、、だから哀しい、、』
「、、元気ですよ。
 でも、温かいのでありがとうございます」

『哀絶はまたそうやって桜に甘やかされおって!
 儂と変われ』
『嫌じゃ…桜は儂のじゃ…』
『主のではないわ』

『桜ー!!外に行こうぞ!』
「空喜さん。、、やっぱり寒そうですね、、」
『何の話じゃ?羽がぬくぬく温かいが?』
『桜、外に行くなら蜂蜜湯飲んでからじゃ。』
何なら生姜も、、と哀絶が呟く。

『何故哀絶は儂でなく空喜には桜を譲るんじゃ!
 面白ぅ無いぞ!』
『良いじゃろう?可楽よ。
 これが日頃の行いの差という奴じゃ。
 カカカッ!』
空喜は嬉しそうに笑う。
桜は蜂蜜湯を飲みながら賑やかな鬼達を見る。

ーー温かい…。

そんな室内に、現れた積怒は蜂蜜湯を飲む桜の隣に無言で座る。

『無理はするな…』
「…、、どうしました?
 そんなに弱々じゃないですよ?」

『寒さで死ぬのが人間であろう、、

 主様も怯えておった、、
 じゃから儂は冬が、、腹立たしい』
「、、、、?」

遠くを見ているような積怒の目。
桜の知らない彼らの記憶でも有るのだろう、、
心のどこかから冷たい風が吹き込んで、
ヒューヒューと、淋しい音を立てているのかもしれない。
それはきっと、、とても寒くて、仕方ない。

「一口いかがですか?温まります。」
桜は湯呑みを積怒へと差し出し小首を傾げる。
「とても甘いですよ?」

出会った視線は驚いていた。
「どうぞ?」
ダメ押しに笑って見せると積怒の手は湯呑みを桜の手ごと掴んで湯呑みを傾け、口を寄せる。
喉が波打ち蜂蜜湯が通った後も、積怒はその手を離そうとしない。

「、、あの、、」
『……桜の方が甘い、、。』
「、、、甘い、甘いと、
 鬼の皆さんは甘い物好きなんですか?」

積怒の言葉がくすぐったくて、
話を他所へ向かわせようとした。
小さなため息の後、離れた積怒の手は今度は頬へとたどり着く。

『桜だからに決まっておろぅ?』
「………。か、顔の、、、」
『顔?』
「、、、顔の火傷残らず治って良かったですね」

『・・・・・・・』


ムスッ。


『、、、腹立たしい、、』
「ふふっ。ありがとうございます。」


『桜ー早よう行こうぞ!!』
「あ、はい!今っ」

空喜の元へ行こうとして、桜は積怒に腕を掴まれた。
『そのままでは、外へは出られんじゃろ…』
「あ、、」

温かいため気にしていなかったが、哀絶が持ってきた上掛けにくるまっているような状態。
外に出かけるには長すぎであり、布の量もあり過ぎる、、
しかし、上掛けを置いて出掛けるには寒いだろう。
縦を横に変えて羽織ってみるが丈はどうにかなっても布の量の問題は解決しない。

ーー、、どうしたことでしょう、、

『はぁ。
 ……くれてやるから、風邪など引くでないぞ』
ずいと目の前に出されたのは外套(ケープ)。
臙脂色のそれは見るからに品がある。

上掛けを肩から下ろして、外套を羽織る。
長く伸びた布を前で大きなリボンに結った。

「、、お眼鏡に敵いますか?」
『聞くな。苛々する。』

『桜ー。積怒に構って居らんで行こうぞ!』

「では行ってまいります」

桜は空喜に手を引かれて出掛けていった。
 


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