月の下2


吐く息は白く、身がブルっと震えた。
「何処へ行くんですか?」
『んー特に目的地は無いぞ。
 なんというか、な、、

 近頃は昼間でも桜は外にあまり出んからな。
 内ばかりでは息が詰まるじゃろ?

 そうで無いにしても、
 儂が桜と一緒に出かけたかったんじゃよ。
 近頃は果実も何も見つからんからのぅ』
「宝探しみたいで楽しかったですね」

『その言葉は嬉しいが、"楽しかった"では無いぞ?』
「・・・・・?
 実りの時期は終わってしまいましたよ?」
桜の方へくるりと向きを変えた空喜は、羽と両手を広げて微笑んだ。
『またその季節はやって来るじゃろ?
 じゃから桜の宝探しはまだ続くんじゃよ。』

「・・・・・」
『その時は、また儂を隣に居させてくりゃれ』

ホロッ、、と涙がこぼれ落ちた。

『?!!桜?!
 わ、儂、変な事を言ったじゃろうか?
 悲しくさせてしもうたか?
 い、嫌じゃったろうか?、、
 謝るっ!謝るからなっ』
「!!ち、違うんです!!
 なんだか嬉しくなってしまって、、、」

未来を語る話はとても優しくて。温かい。

「また、一緒に探しましょう。
 その時は、、手を引いてくれますか?」
『断る理由が見つからぬ。
 カカッ。喜ばしいのぅ。

 そうじゃ!桜!!
 主は、人間が空にあげる火の玉を知って居るか?!』
「、、空に、、火の玉、?花火、、のことでしょうか?
 多くが、夏のお祭りに、、ひゅー、どーん
 と、いうものですよね?」
『そうじゃ!その、ひゅー、どーん!!じゃ!』

物知りな桜でもこれは知らんじゃろう?と空喜は得意げな顔をする。

『その花火を空から見るとどんな形に見えるか
 知って居るか?』
「、、空から、、ですか?
 …それは考えたことが無かったですね…
 どんな形、、、」

ずいっと桜の目の前へと空喜は身を乗り出す

『なんと!な!
 空から見ても丸い形をしておるのじゃよ!』
「丸いんですか?!
 空からなのに?丸?」
『そうなのじゃ!驚きじゃろ?

 、、、むむ?その顔は信じておらんな。
 次の夏には証明してやるわ!』
「証明って、、?」
『そんなの決まっておろう?
 桜を抱えて飛べば良いだけじゃろ?』

「・・・・・・・・飛べますか?」
『なんじゃその間は?!
 桜、できぬと思っておるな?!!』


ならば行くぞ。

その声と一緒に、桜は抱き締められた。




地面から足が離れたのは抱き締められた事によるものなのか、地面が遠くなったからなのか始めは分からなかった。
冷えた風が容赦なくぶつかって、驚きに身を縮ませる。次第にそれは柔らかく、そして吹き止む。
実際のところは止んだのではなく、空喜の上昇が止まったことによるものだったのだが。


『桜。ほれ、見てみよ。』
「………み、見えています、、」

地面は遠く、空が近くなって、今なら星に手が届くかもしれない。
「空喜さん!空です!凄いです!
 飛べる日が来るなんて、思ってもいませんでした!!」
隠れ住む山の向こうに広がる景色は、ちらほら明かりが灯って星空が地上まで繋がっているようだった。
「綺麗…」

『………桜、、。しかしな、、
 すごく、、言いにくい、んじゃがな、、


 儂、、限界かも。』

「、、、はい?」

『つ、捕まっておいてくりゃれ、、、』

今度は地面に向かって風を追い越して行く。
言葉を変えると、そう。落ちている。

まさかの状況に口からは声も出なかった。
ただ空喜にしがみついた。


ーーーーーー

痛くはなかった。ただ枯葉の上をコロコロと転がって
短い空の散歩は幕を下ろす。

『っ、、、桜!大丈夫じゃったか!!!
 怪我は?!、痛いところはないかぇ!!』
「…っ、、ふ、。」
桜の背が小刻みに揺れて、空喜はあわあわと桜の周りを回る。
「っふふ、、あははは、、お腹、、お腹痛い、、
 あははは、、まさか、、まさか落ちるなんて、、
 よ、予想外、、過ぎますよ、、ははは」
『桜?…大丈夫、、なの、かぇ、、』
「お腹…お腹痛い……わ、笑い過ぎで、ですけど、、
 っふふ、、頬、、頬が、、痛い、、」
枯葉の上で背を丸めて笑っている桜に強張っていた空喜の表情も緩んでいく。
『ほんに笑い過ぎじゃ、、
 落ちたのは儂のせいじゃが、、心配したんじゃぞ、、』
「すいませんっ、、でも、、止まらなくて、、
 っふふ、、」

空喜は転がったまま笑っている桜の隣へと寝転んだ。
『格好悪いのぅ…
 こんなつもりじゃなかったんじゃがなー
 花火を空から見せる事など出来んかのぅ…
 怪我を負わせてしまってからでは取り返しがつかん…』
 
「私は、、この通り、楽しかったですよ?」
『じゃからとて、次も何事も起きぬとは限らんじゃろ』
桜は仰向けに体制を変えると、空喜の手を握った。
「でしたら今度は、不意打ちではなく、準備してから
 空へ参りましょう?
 私も空喜さんの事を離さなければ、
 飛ぶことに集中できますよきっと。」

『カカカッ
 桜が諦め悪いとは。
 これは言った手前、儂も鍛えねばならんなぁ』

「季節が巡ることの楽しみが増えました。
 それはとても喜ばしい事です」

ーー何故儂らを魅了して仕方ないのじゃなろうな、、
  
『うむ。喜ばしい限りじゃ』

約束を一つずつ積み上げて、喜びを。楽しみを。
続く世界は明るいとそう信じていた。
 


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