いつかの話4


『桜と櫻は…』
『同じ魂を持っているのじゃろうな。
 でなければ皆が惹かれる理由が見つからん。』

『……じゃったら、、この気持ちはなんなんじゃ、、
 主様の記憶に引っ張られただけだと言うんか、、
 主様、、教えてくりゃれ、、
 ……これは本に儂、なのか、、、』

なんだか悔しくて仕方ない。自分という存在は主様を守る為にだけ有ればよかった筈なのに、知らない感情がそこに在る。
欲が生まれている。
自分は喜びの感情。櫻と過ごした時の記憶の欠片。では、魂という根底は同じでも、違う存在の桜を求めてしまったら、空喜という存在はどうなってしまうのだろうか、、桜といる事で満たされてしまったら、、
消えてしまうとでも言うのだろか、、

空喜は主様に縋り付いていた。
答えが欲しかった。
明確な答えがないにしても、ただ不安を軽くするだけの答えが欲しい。

ーー消えたくはない。桜と共に在りたい。

『知らない事を知るのは怖い。じゃが、、
 空喜なら怖いの先にきっと喜びを見つけられる。
 何せ、主らの側には桜が居るんじゃからの

 さぁ、そろそろ夢から覚めようぞ。

 儂は死ぬのが怖ろしい。桜を見つけてから尚更に。
 じゃから、どうかまた桜と会えんくならん様に儂を
 守っておくれ。』


ーーーーーー

寝るという行為は、いつ以来なのか全く思い当たらなかったが、存外悪いものではないのかも知れない。
気怠(けだる)かった体は、もうほとんど楽になった。

体を起こして辺りを見るが、桜の姿はない。
手を結んで眠りについたのに、空になった手に少々寂しさを感じる。
手のひらを眺めていると、胸の奥がキリリと痛む。

『ひどい顔じゃ。らしくもない。』
『…積怒、、』
『難しい事は考えんで良い。
 好きに飛びまわって笑って居れ。
 考える役目はお前には向かぬ。

 儂らは元は一つ、、
 ……可楽の奴と混ざって居ったなどとは
 考えたくもないがな。

 儂には味わえん感情を空喜は喜んで居れ。桜の為にも』

積怒は空喜の頭にポンと手を置くと、桜を呼んでくると言い背を向けた。
 

ーーーーーー


自身の影の中から声がする。その声は聞いたことがある様な気がするのに、その姿を思い浮かべる事は出来ず、桜は首を傾げた。

『主はアバズレじゃ。
 儂らを惑わし続ける。

 儂は主が憎い。
 ずっと、ずっと記憶の中にあり続ける主が。
 この気持ちを掻き乱し続ける主が…

 何故先に死んでしまったんじゃ、、』

桜は膝をつくと、影へ手を伸ばす。
しかし、その手は振り払われた。
「アバ、、?…ずれ??、、とは?
 それに、、えっと、、私は生きておりますよ?」
『主は主様を置いて逝った』
「私は死んだんですか?」
『主では無いが、主じゃ』

死んだ事は無い為、身に覚えはないが、影の声は苦しげで放っておく事はできそうにない。

「ならば今度は一緒に生きましょう。
 流石に寿命はどうにもなりませんが、精一杯生きます。
 だから過去ではなく、
 これからを見てもらえませんか?」
『・・・・・・・』
「ね?」
『今生は死んでも良いとは申さぬのだな』
「季節が巡るのが楽しみなのです」

笑って見せると、影から手が伸びて桜の頬に触れる。
『憎らしい、、儂は許したわけではないぞ。
 約束じゃ。もう先に逝くこと罷りならん
 儂らをこれ以上苦しませるな。』

「この命続く限りは、がんばります…
 そのっ、、憎まれない私になれるように!」

影の刺々しさが少しだけ薄まったような気がした。
そして、話は終わりだと雰囲気で告げ、影の中から誰かは去っていく。
最後まで姿を見せる事はなかった。




『、オイ、、桜!』
「、、、え?、、積怒さん?」
『、、何度も呼ばせるとは腹立たしい。
 眠いなら横になって休め。
 結局こうして上の空ではないか。』
「あれ、、」
ーー誰かと話をしていた気がするのに、、

桜は詠から教わった医学の知識を詰め込んだ紙の束を広げ、作業台に突っ伏して寝ていたようだ。何かを誰かと約束をした筈なのに、靄がかかったように記憶は曖昧で思い出せない。

『空喜が目覚めたぞ。
 そろそろ動いても良くしてやらんと奴は逆に病むぞ』
ぽかんとしたままの桜だったが、積怒の言葉でハッとする。
ーーそうだ。空喜さんが風邪を引いたんだった。

慌てて立ち上がると、頭がジーンと痛む。

『、、桜?』
「大丈夫ですよ。突然立ち上がって、
 少し体がびっくりしてるだけですから」
痛みは引き、「ほら、もう何ともない」と笑うと積怒の眉間のシワが少し深くなった。
しかし、ここで問い詰める気はないようで、案内など必要無いのにも関わらず、空喜の休む部屋まで積怒は桜を導くのだった。
 


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