外へ
『何故儂がそんなものに付き合わねばならんのだ!
そもそも外に出る意味など無い!
行きたい奴らで勝手に行け腹立たしい!!』
『何を言って居る!雪じゃぞ!積もったんじゃぞ!
喜ばしいではないか!遊ぶぞ!』
『そんなものに興味はない!それに、儂は冬が嫌いじゃ』
『・・・・・・』
直ぐに返事のないことに、櫻に関する記憶を知ったばかりの空喜に少し言葉が足りなかったかと積怒は思う。
『記憶の話ではな
『寒いのが苦手だったか!
ならば儂の羽で温めてやるぞ?!』
雪が積もり皆で外に出て遊びたい空喜は、果敢に積怒へと迫っていく。何だかそれは弟が兄に遊んで欲しいと言っているようで微笑ましい。
風邪の一件以来、空喜と積怒の距離感は少し柔らかくなっていた。しかし、今回の発言はその許容範囲を逸脱してしまったようだ。
『お前に温めてもらう位ならば日の光で暖を取る!!』
「そんな事をしたら大変なことになってしまいます
駄目です!」
桜の声に話がややこしくなりそうで、何故この拍子に、、と積怒は思わずにはいられない。
ムッと顔を向け続ける桜に、愛らしいと思う反面、溜め息が溢れてしまう。
『そういう話ではなくて、、』
「そうだ!積怒さんも外へ行きませんか?
こんなに積もったのを見たのは初めてなのです!
一緒に遊びましょう!」
この際桜に歳など関係ない。珍しい雪は童心を蘇らせるもの。昔を知る人が居ないのなら尚更心躍らせても恥も外聞もない。
だから楽しむ以外の選択肢がない。
『ほれ積怒!桜も一緒じゃ』
立ちあがろうとしない積怒の手を取って2人がかりで立ち上がらせると、桜と空喜はその手をひっぱり、廊下を進み外へと連れ出そうとする。
外に立つ哀絶に手を振って笑う桜の横顔に、こんな日が有っても悪くないと積怒は思った。
今の今までは。
ズザザザザー
外へ出た瞬間に突然音を立てて頭上から大量の雪が落ちてくる。
咄嗟に桜に覆い被さるようにその身を守ろうとするが、不意を突かれた雪の重さはなかなかなもので、二人揃って雪に沈む。
「積怒さん、、大丈夫ですか、、」
腕の中から桜の控えめな声がして、彼女の無事が分かると、その耳触り良い声に、状況は苛々するのに怒鳴り声を上げる気にはならない。
『ああ。桜…怪我は無いな』
「はい。」
体にかかる雪の重みは積怒にとって実際、大した事はない。不意を突かれたことと桜を気にして膝を折ったに過ぎない。誰の仕業なのかも既にわかっている。
ならばヤルしかない。
ーーーーーー
『おかしいのぅ。何故空喜が埋まって居らんのだ?
、、な、なんぞ?哀絶その顔は?
?空喜。桜も居らんではないか。
連れてきたのではないのか?』
『か、か、可楽よ、、今、主が埋めたのは、、
積怒と桜ぞ、、、』
『、、それは、、それは傑作ぞ!カカカッ
なかなか積怒は遊びに外に来んからな!!
愉快、ゆかっグハッ…』
可楽に大量の雪玉が飛んでいく。
埋まったまま桜に雪玉を作らせて、顔を出すと同時に積怒は雪玉を投げつけたのだった。
『桜、、埋まってしまうとは哀しいぞ。
怪我は無いか、、』
「はいっ。この通り元気です。
ささっ反撃に協力してください」
雪の上に広げた外套に雪玉をいっぱい乗せていく。
積怒は尚も可楽に雪玉を作ってはぶつけを繰り返している。可楽もやられるばかりではなく積怒に投げ返し、二人で雪合戦が成立していた。
「哀絶さんっ!お願いします!」
桜の声に哀絶が桜の外套を振りかぶると、包まれていた沢山の雪玉が一斉に可楽へと向かって行った。しかしそれは一度に飛んでいくモノだから可楽は飛び上がり簡単に避けてしまう。
『カカカッ!頭を使ったようじゃが、避けるのも簡単ぞ!』
「うわっ!」
飛び上がった可楽の目には桜が雪に足を取られて膝をつく姿が目に入った。積怒は空喜に足止めされており、桜の元へは向かっていない。
『桜!大事無いか!?』
雪の上とは言え、やはり人間はか弱い生き物という認識で、可楽は桜の元に走り寄りしゃがみ込むとその顔を覗き込んだ。
『どこか痛め
「えい!」
桜の両手いっぱいに掬い上げられた雪は、そのまま可楽の顔にぶつかりハラハラと落ちて行く。
一瞬のことで直ぐには何が起きたのか可楽は察する事は出来なかったが、開けた目の前には悪戯っぽく笑う桜の顔。先日の積怒に続いて再び桜に計られたという訳だが、湧いてくる感情は楽しくて仕方がない。
「成功です」
『カカカッ!してやられたわ。』
「えっ!ちょっと、、何するんですか??!」
しかし、可楽もやられてばかりではない。
目の前の桜を横抱きにかかえ上げると、踏み跡ひとつない新雪の中にペイっと放り込む。
驚きの声と共に積もった雪が舞い上がる。
さらに桜の横へ可楽も飛び込むと、再び雪は舞い、頭をあげるとそこには雪を頭に乗せたお互いの姿。何が起きたか理解が追いつくと、桜のまん丸な目をしていた顔は微笑みに変わる。
『楽しいのぅ』
「はい。楽しいです」
でも、と一言呟くと桜は仰向きに転がり、空を見上げる。顔を出していた月に雲がかかり辺りは闇が深くなる。
「はしゃぎ過ぎて疲れてしまいました」
ハハっと笑い声を上げると、少し離れた場所で空喜に絡まれている積怒の声が聞こえる。
目を瞑って深く息をすると、肺はツンと冷えた空気で満たされる。ポカポカする体にはちょうどいい気がした。
ーー楽しい。…凄く。
雲が通り過ぎ、再び月光が辺りを照らす。
雪の表面はその光で薄青く静かに輝いていた。
何処までも広がっている様な光に目を奪われる。
『これ桜。
そんな所に転がっていては冷えてしまうじゃろうが。
人間はか弱い生き物じゃて、風邪をひいてしまっては
哀しい。そろそろ中に戻るぞ。』
地面に転がる桜に手を差し出し哀絶は可楽にチラッと視線を向ける。
『またそうやって哀絶は
儂と桜の時間を奪い取ってゆく』
『主は十分桜と居ったではないか。
それに雪に埋めて、雪に投げて、桜の衣は濡れて居る。
着替えて暖かくせねばならぬ』
『ならば安心せい!
儂が抱きしめておけば温かろう!
儂も桜と居れて楽しい。一石二鳥というやつじゃ!!』
『可楽に桜を任せておいては何を仕出かすか
判ったモノではない。じゃから主の申し出など
良いという訳が無いであろう。』
「哀絶さん、、可楽さん、、
……眠く、、なり、、ました、、」
ムクッと起き上がると、よろよろ立ち上がり、慣れない雪の上を桜は歩き出す。
『カカッ。桜は全く愛らしい。ほれ、哀絶。
楽しくはあるが早う戻って、休ませるぞ。』
体制を崩したところを支えると、桜はとろんと目が落ち始めていた。尚も歩いて戻ろうとしていたが可楽は桜を抱き上げると、屋敷へずんずん進み、外套を拾い上げた哀絶が後を追った。
ーーーーーー
目覚めた桜は小さく笑った。
眠っていたのはいつもの日が差す部屋ではなかった。薄明かりの中着替えた記憶はないのに寝巻きで布団に横になって居たのはヒヤヒヤしたのだが、周りでは四鬼たちが珍しく寝息を立てて居る。
「ふふっ」
思わずみんなの頭を撫でたのは桜一人の秘密である。
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