痛みを5


炭治郎、善逸、伊之助は食堂で朝食を前にしていた。善逸のおかずを狙いながらモリモリとご飯をかきこむ伊之助とは対照的に、炭治郎の食はあまり進んではいなかった。
それもその筈、炭治郎は今朝方までずっと蝶屋敷の周りを走り回っていたのだから。

カラカラカラ…

「おかわりいかがですか?」
ご飯の入ったおひつを乗せた台車と一緒にアオイとナホ、キヨ、スミが炭治郎達の元へとやって来た。
「アオイさん、キヨちゃん、ナホちゃん、スミちゃん。
 みんなのおかげで本当に助かったよ…」
「アオイーー飯よこせー!」
「あ"コラ伊之助っ!それは俺の焼き魚だろが!」

「権治郎も食わねーから元気出ねーんだぞ!
 アオイ!権治郎にも飯山盛りだ!」
伊之助の言葉を「あーはいはい」とやり過ごし、アオイは炭治郎に目を向ける。食事が進んでいないようだから後でおにぎりでも用意する形にした方が良いかもしれない。

「いえ、もっと早く気づければ良かったのですが…」
明朝、朝ご飯の支度の為にと動き出した時、蝶屋敷の周りをぐるぐると走り回る妙な唸り声と二つの足音に気付き、その足音の一つこそが昼間皆で探し回っていた炭治郎のモノであったのだ。彼は担当刀鍛冶である鋼塚に追い回されていた。

「あ、あの、、鋼塚さんは、、」

鋼塚が自分を追い回していたのは二連続で任務中に刀を駄目にしてしまったのが理由だと分かっている炭治郎は鋼塚の様子も気になる。

「鋼塚さんなら、縁側でみたらし団子を
 召し上がっています。
 桜さんお手製のみたらし団子ですから、きっと
 機嫌も治っていると思いますよ」
「…桜さん…?」
「団子!!俺様にも寄越せアオイ!!」
「おっ!俺も桜さんのお手製なら食べたい!」
自分には聞き覚えのない名前だが、伊之助は団子に反応しただけだろうからともかくとしても、どうやら善逸には心躍る人物らしい。

「沢山作ってくれましたから、後で持ってきます。

 あの、炭治郎さん。休まれてからで良いのですが、
 お時間いただいて良いですか?
 会いたがっているようだったので…」


ーーーーーー

その日の夕方、炭治郎はとある病室に案内された。戸を開くと寝台に座って本を開く女の人がいた。炭治郎の訪問に本を枕元に置くと、体の向きを変えた。すらりと足が揃って床へ向かって伸びる。
笑っているのにどこか悲しげで儚く見えて、逆光にぼやけた輪郭には涙が流れている様な錯覚をおぼえた。
「はじめまして。桜と言います。
 炭治郎さん、、です、よね?」

ーーお館様とは違うけど、なんだろう、、
  このふわふわする感じ、、。

「…桜、さん…。あっ!貴女が。
 みたらし団子、作ってくださったそうで
 ありがとうございました。」
桜に促されて寝台の横にあった椅子へと炭治郎は腰掛けた。
「お役に立てたのなら良かったです。
 あの時間だとまだお団子屋さん開いてませんし、
 何より、鋼塚さんはあの味が好きでしたから。」
「《でした》?」
「私の恩人も、鋼塚さんが担当刀鍛冶師だったんです。
 怪我人の手当以外はざっくりした性格で、何度
 鋼塚さんに刀の事で怒られた事か、、そのうち
 怒鳴られそうな時は山の様にみたらし団子作って
 笑って誤魔化す様になったんです。
 勿論、そう上手くはいかないんですけどね。」

《鋼塚!好きなだけ食べて良いぞ》
桜の目が細く目尻が下がる。

ーーきっと大切な思い出なのだろう。
  でも、、この口振りだとその人は、もう…。
「美味しかったです。とても。」
「沢山作った甲斐がありました。と言いますか、
 詠さんが大量に作るから、あの量でしか作れなくて」
桜は鈴が転がる様な声で笑った。

「あの、会いたがっているようだからとアオイさんに
 言われましたけど、、」
桜の表情に少し後めたそうな色が差す。
「アオイさん、優しいですよね、、
 私に良くしてくれる。
 私の方が年上なのに、彼女の方がしっかり者ですし、
 それに私、アオイさんを傷つけてしまったのに、
 それでも助けられてばかり。
 私には何も返せないのに……本当にダメですね…」
炭治郎はその時、みたらし団子を持ってきた三人娘の姿や、この部屋へ案内するアオイの姿が頭によぎった。
ーーみんな優しい顔をしていた。

「ここの人たちは、貴女のことが好きみたいですよ。
 貴女のことを話す時、皆優しい顔になる。
 …あの匂いは……。そうだ!家族!
 皆さんにとって桜さんは家族なんじゃないですか。

 だから見返りなんて必要なく
 無条件に大切なんだと思います」

炭治郎の言葉を桜はなんだかくすぐったく感じた。でも、本当にそう思ってくれているのなら幸せな話だろう。
桜はきっとこの炭治郎という少年も優しい人なのだろうと思う。伊之助が言った《良い加減な奴じゃねぇ》というのも間違いではなかったようだ。

桜は布団をぎゅっと握り意を決す。

「あの、、私も聞いて良いですか…
 鬼になった妹さんを人間に戻そうとしている
 というのは本当ですか?」
「…え?、、」
 


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