痛みを6
口にしてから、初対面なのにあまりにも配慮の無い質問だったと後悔の気持ちが湧き上がる。
桜は鬼殺隊士でも無ければ、今は蝶屋敷で働いているわけでもない。本来なら完全に部外者なのだ。
「あ、あの。ごめんなさいっ。聞いて良いことと
悪いことがありますよね、、
すいません、、忘れてください、、」
「本当です。俺は妹を、禰󠄀豆子を人間に戻す為に
鬼殺隊に入りました」
その言葉に桜は炭治郎を直視していた。真っ直ぐな意志のある目が並び、それはとても綺麗なモノに見えた。
「な、、何か方法は見つかったのですか?!
えっと、方法ではなくても、何か手掛かりとか!」
突然桜の整った顔が近づき、炭治郎の鼓動は早まる。
「あ、いや、それはまだ、、
鬼の血を研究している人に、鬼の血を採取して
調べてもらっているんです。
少しでも鬼舞辻に近い血なら何か方法が見つかる
、、筈……なのに、おれは、まだまだで、、」
そういえば善逸が、蝶屋敷に運ばれてくる前の任務で炭治郎と伊之助は炎柱を看取ったという事を話していた。
その時善逸は少し離れたところにいて、最期の言葉を聞いた炭治郎と伊之助とは現実味がずれて歯痒さを感じる事があるという話だったと思う。
叱咤も激励も、取り繕う様な言葉も今の炭治郎にかけるものではないと桜は思う。なぜなら"安静に"と言われているのにも関わらず病室を抜け出してでも鍛錬を続けているというのだから、彼は十分足りないものを掴もうと努力を重ねている。
「炭治郎君はどんな未来を描(えが)きますか?」
「……未来…」
「禰󠄀豆子さんを人間に戻して
おしまいではないのでしょう?」
「…着物、、禰󠄀豆子に綺麗な着物を着せてやりたい
弟や妹のためにいつも自分の物を後回しに
してたし、もうそんなことやってやれるのは
禰󠄀豆子しかいないから…。」
炭治郎の目の奥に光が差している。口にしたものだけでなく、他にも色々なものが浮かんでいるのだろう。
「未来を思い描ける人は、ちゃんと前に進めます。
それに、、君にはとても素敵な仲間がいる様ですから
きっと、大丈夫です。」
「・・・・ありがとうございます。
あの、、
鬼を人間に戻すことに関心がある様ですが、
桜さんもそんな人が居るんですか?」
自分の事を話すのを桜は少しだけ躊躇ったが、この炭治郎という少年には話しても大丈夫だと思えた。鬼が複数という事は伏せて、桜はこれまでの生い立ちを簡単に話した。自分の両親を殺した鬼を庇い立てするのはきっと奇妙なモノに映るだろう。それでも炭治郎に嘘をつくという気にならなかったのだから仕方ない。
「私は季節が巡る事が楽しみなんです。小さな約束を
重ねて、それが叶う日が待ち遠しい。
それが許されないというのなら、私が鬼になっても
良いと思うの。でも、鬼さんは私を食べないどころか
私を鬼にしてもくれない。私が殺生を嫌っていると
知っているからなんでしょうね」
生きる為に必要な栄養が動物の肉には含まれているのは分かっていたが、どうしても"自分が生きる為に生き物を殺す"という事が出来なくて、栄養が偏るとは思いながらも果実や、芋などそういったものばかりを摂取していた。
今回風邪をこじらせて肺炎に至ってしまったのもそういった栄養の偏りが一因だったはずだ。共に生きる事を選ぶなら、それも改めなくてはならないと頭の片隅で思う。
「そういう、優しい心のある鬼さんなんです」
「桜さんは、その人のことが好きなんですね」
ーーす、き?、、、好き?
たった一言、その言葉によって、今まで説明が付かなかった感情に名前がつき、彼等を想う度、胸に押し寄せる痛みを、その苦しさが無くならないながらも不思議なものでは無くしていく。
ーーそっか、、私は、、
桜が下を向いたままで、返事も無くなってしまった事に炭治郎は慌てた。心を寄せている事は事実だったとしても、親の仇、それも鬼を"好き"とは流石に言葉を違えてしまったと。
「えっと、好きと言っても好意には
色々なモノがある訳で…
「炭治郎君。私、君と話せて良かったです。
鬼さんの事、"人"と言ってくれてありがとう」
いつの間にか桜を包んでいた悲しそうで儚げな雰囲気は綺麗さっぱり吹き飛んで、炭治郎には優しさの塊の様な可愛らしい女性に見えた。
-
ページ: