其々の思い2


宇髄が病室を後にし、再び一人になった桜は考え続けていた。

ーー私がしたい事は何?
  私が行きたい所はどこ?
  私が一緒にいたい人は誰?
  私が…

目を閉じれば色々な人の顔が思い浮かぶ。いつの間にか自分の周りにはたくさんの人がいた。

《これから桜さんの世界は広がっていくんだ》

ずっと詠がいう事は大袈裟だと思っていた。寿命(先)が見えたこの命でどうやって世界が広がるのかと、、、しかし、桜の寿命(先)は予想外に広がっている。

ーー私はどちらを選べばいいのだろう…


ーーーーーー

目の前で詠が笑っていた。

ーーここは蝶屋敷の縁側?
  夢の続き、、?

詠の視線が庭へと移動し、桜もその視線を追って庭を向いた。雨上がりの光溢れる美しい景色の中に四つの姿。その一つが手を差し出した。

ーー積怒さん、哀絶さん、空喜さん、可楽さん、、

心臓が跳ねた。
夢の中でまで詠と四鬼が討ち合う姿など見たくない。でも、争わせない為にここを動かないのが良いのか、四鬼の元へ駆け出せば良いのかどちらに居るのが正解なのか分からず、背筋に冷たい物を感じた。
恐る恐る詠へと視線を向けると詠も庭から桜へ視線を戻した所だった。その顔は少し困った様に、それでも微笑む。伸びた手は桜の頭を優しく撫で、ポンと肩を叩く。

《自分を大切に》
《幸せってやつの中に居てほしいだけだ》

胸の奥が痛い。答えを見つけてしまったから。
桜は目を向ける。行きたい方向へ

ーー待って、、

ーーーーーー

「っ!!」
いつの間にか室内は真っ暗になっていた。

ーー行かなきゃ。ちゃんと話さなきゃ。

掛け布団をめくりそして、病室を後にする。足早に廊下を進み目指す人を探す。
分かって欲しい。喜ばれる選択でないとしても。聞いて欲しい。自分の考えや気持ちを。
彼女がどう思うかは分からない。
それでも背を向けてしまう気にはなれなかった。


ーーーーーー

「しのぶさんっ!」
やっと見つけたその人は沢山のガラス瓶の並んだ調剤室の更に奥の方にいた。手にしていたガラス瓶に目をやり、一瞬悲しそうな表情をしたが、ガラス瓶を棚に置くのと一緒にその表情はカナエを模した笑顔という名の仮面を被る。

「どうしましたか?そんなに慌てて。
 でも、元気になった様で安心しました」
「それは本当にありがとうございます。
 私っ、しのぶさんに話したい事があって…」

ーーどこから話せば良い?
桜が口籠もっている間にしのぶが先に口を開いていた。
「桜さんにはここはどういう風に見えますか?
 昔のように居心地が悪いですか?」

「……蝶屋敷は……変わらないんだと思います。
 ただ私が周りに背を向けていたから、合わない
 と思ってしまったのだとこの数日間で思いました」

しのぶは桜の言葉に微笑んだ。
「私は鬼殺隊が変化している。そんな気がします」

「炭治郎君たちですか?」
「そうですね。きっかけは彼らだと思います」
彼らの雰囲気は他の隊士とはやはり違って、人を寄せ付け魅了する。
「私も鬼をここに滞在させる日が
 来るとは思っていませんでした。」

しのぶの頭に浮かぶのは、私室にある金魚鉢を、まーるい目をして見つめる禰󠄀豆子。
彼女は鬼でも鬼とあまり認識していない自分もいて、自身も変わったうちの一人かとしのぶは思うのだった。
そんな中、桜が口を開く。

「私の記憶より賑やかで明るくて、むしろ居心地が
 いいかもしれません」
「まぁ良かった!
 これで心置き無くまたここで過ごしてもらえます。
 それにナホ、キヨ、スミにもう少し手伝い以外の
 事をやらせてあげられたらと思っていたの。」

行き場もなく蝶屋敷に来ることになり、幼い身で忙しく動き回り、本当に幸せなんだろうか?と思わずには居られない。出来るだけここを出ても生きていけるようにしてあげたいとしのぶは思っても、全てを見てあげる事は出来ず、姉さんだったら、、と思わない日はない。
しかし、桜と一緒なら何とかなるかもしれないとも思う。

桜が小さく息をついた音がしのぶの耳にも届いた。その音は何か決意を固めたようなもので、しのぶはその続きは聞きたくないと思ってしまった。
 


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