疑問と答え3
用意された男物の浴衣に手を通すが、桜には丈は長く、着流しの筈の浴衣で僅かではあるが"おはしょり"が出来てしまう。
ーー紐が足りない…
桜はとりあえず丈を決める為の腰紐を結ぶと、浴衣を整え、胸元をきっちり合わせて押さえ、そろそろと不死川を探して脱衣所を後にする。
明かりのついた広間を覗き込むと、敷布の上に書き留めていた紙が一枚一枚並び、それが四畳程を埋めており、目的の人物はそれに目を落としていた。
「しっかり温まって来たかァ?」
「…あ、はい。あの、、ありがとうございました」
「滲んだ所も有るが、大体は読めそうだ。
まぁ、良かったな。」
「!?、、えっと、、はい」
「鬼を人間に戻す。…か。」
桜は口をキュッと結んだ。人一倍鬼を憎んでいると思われる不死川だから、次に彼が紡ぐ言葉が怖い。否定されるか、罵倒されるか。心構えの時間がもっと欲しかった程だ。
「お前がやりてェなら好きにしろォ。」
「え?」
「は?
…ってお前っ!!紐っ!必要なら早く言えっての!」
顔を背けて渡される紐に、どうしても浮かんで消えない疑問がポロッと口からこぼれてしまった。
「不死川さん、、、ですよね?」
「……」
バツが悪そうに溜息をつくと、不死川はわしゃわしゃと後ろ髪を掻く。
ーーーーーー
遡ること、それは不死川が「下衆にでも成り下がったのか」と桜に迫り、間に入った宇髄が話を終え、桜の病室を出た後の出来事。
「やり方が雑いんだっての」
つい先程桜の部屋から出て行った不死川の背を見つけ、宇髄は大きな声を出した。
ため息を吐きながらも視線を向けた不死川は一言「で?」と詳細を要求する。
しかし、宇髄は隣に並ぶと「聞いてもテメェには言わねぇよ」と口の端を吊り上げた。不死川の拳が振り上げられ向かうのは宇髄の顔面。その拳を宇髄は簡単に受け止め、逆に握ると地面に向かって投げつける。不死川は体を捻ってその勢いを相殺すると、少々距離を取って宇髄を睨みつけた。
「隊員同士でやり合うのはご法度だろー」
「刀は抜いちゃいねェから、鍛錬の延長ダこの筋肉馬鹿」
「だったらその辺に隠れてる乙階級の隊士らも
混ぜてやろーや」
「違いねェ。さっきからコソコソしやがって
いい加減腹も立ってきた所だったしなァ?」
宇髄と不死川が揃って茂みの方を睨みつけると、隠れていた隊士数名は悲鳴をあげて走り去って行った。
「アレで階級乙とか、最近の鬼殺隊はホント質を疑うわ」
「柱が鍛錬してやるってんだから
向かってくんだろォが。普通はよォ」
「ちなみに、桜、鬼殺隊員じゃねぇーから、
隊律違反にはなんねーぞ」
「分かってるっつーの」
桜の病室の前には、階級を上げる事と鬼への憎しみに取り憑かれ、後先考えない隊員がウロウロしていた。
桜(人)を殺さずに鬼殺隊に返すような鬼ならば大した敵ではない。居場所を聞き出して首を落としてしまえば手柄となると。
鬼を斬って責め立てられる様な事は無い
そんな奴らがうろうろしていたのである。
そして、鬼の居場所を聞き出す為に桜に危害を加えるかも知れないと察知した不死川はそういった奴等を牽制するために、先に桜の病室へと怒鳴り込んだのだった。
「で……アイツどうするつもりだァ?」
「さぁな。聞きたきゃ自分で聞きやがれ」
「あ"あ"?!」
宇髄は不死川に背を向けて歩き出す。
「俺は任務に戻らねぇとなんねーんだよ」
ヒラヒラと手を振り、脚に力を込める。桜の事も心配ではある。それでも優先すべき人が宇髄には居る。花街に潜入している嫁達が。
「きっと桜は見誤らない。大丈夫だ」
黙ったままの不死川にそう言い残して宇髄の姿は消えた。
ーーーーーー
「めんどくせェ」
「不死川さん?」
「……蝶屋敷に戻らねェって。何があった。
今回は流石に聞く権利はあると思うがァ?」
話を逸らされたと気づいたものの、鋭く見据える視線はやはり苦手な不死川で、頭が混乱しそうだ。
確かに保護されている以上、桜は理由を話すべきだと思うものの、どこから話したら良いのか口籠もってしまう。
「話す気は有ります、、でも、
少し待ってもらえますか、、纏まらなくて、、」
「明日聞く。とりあえず今日は食って寝ろ」
不死川が顎で指す先には夕飯が並んでいたが、それは明らかに一人分で、桜は不死川に目を向けるが、彼は気づかないふりをして「ちょっと出かけてくる」と背を向けて行ってしまった。
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