疑問と答え6


前回借りようとした本は全て目を通し終えて、桜は植物辞典を広げていた。

どうにも気になる…"青い花は存在しているのか"という事が。

赤や黄色、白の記述はあるものの青の花と言うものだけ手がかりがない。
その花の名は…

 "彼岸花"

『"彼岸花"の何を探している』

「……あ、、。
 ……こんばんは。良かったです。また会えて」
『要らぬことを口にするな。
 聞いてることにだけ答えよ』
赤目の少年は桜の顔を鋭い目で睨んでいた。

「青い彼岸花は存在するのか不思議に思いまして。」
『何故そんな事を不思議がる?』

「…絵を見たのです。
 不思議と惹きつけられるその絵が本物の景色なら
 見てみたいと思ったのです」

ご興味がお有りですか?と桜が微笑むと、鬼の少年は読み難い表情ながら何かを呟いた。

ーーーーーー

「突然、すいません。もう締めるところでしたよね?」
桜は貸本屋を後にして生家である画廊へ訪れていた。画廊の管理者である佐斐は嫌な顔ひとつせず桜を迎え入れると、ニコニコ顔で桜に両手を出す様に促した。

差し出した手にコロンと転がり落ちてきたのは銀色の鍵。
「次会えたら渡そうと思っていたのですよ。
 ここは桜さんの家なのですから、成長された今、
 スペアキーですが貴女はこれを持つべきだなと。

 いつでも帰ってあげて下さい。」

佐斐は天井へ目を向ける。それは両親の指輪の置いてある部屋の方で、言わんとする事が伝わってきて胸の辺りがほんわり暖かくなる。

『桜。』
「あ、はい。見に行きましょうか
 佐斐さん、失礼しますね」
「どうぞごゆっくり。
 私は帰りますので、お帰りの際は鍵。
 よろしくお願いしますね」


玄関ドアは閉まり、続いて鍵のかかる音を背中で聞きつつ、父の部屋へと向かう。
閉まっていた部屋のドアを開け電気を付ける。

「…どうぞお入り下さい」


部屋の正面に飾られた青い彼岸花の絵。

青い空を背景に下から見上げた彼岸花は人知れず風に揺れている様で儚げながらやはり美しい。

『絵に関する記録は?』
「残念ながら、分からないそうです。
 鬼さんも、探してらっしゃるのなら、
 この花は存在するのですね。」
『………』

青い彼岸花の絵を見上げ続ける少年の隣に桜は膝をついて座る。膝をつくと桜の方が少年の目線より下になり、桜が少年を見上げる形になる。
「鬼さん…じゃおかしいですね。
 …なんとお呼びしていいですか?」
『調子に乗るな。お前に呼ばせる名など無い。
 呼ばせる機会もない』
「……それは残念です。
 お茶でも入れて参りますね」

ーーあ、れ?
立ち上がろうとした筈なのに、桜の身体は床にうつ伏せに倒れていた。突然力が抜けた様な不思議な感覚。
背中に手が置かれて、力が込められている感じはしないのに起き上がる事は出来そうにない。

『…稀血。か。
 この絵に免じて殺すのは辞めてやろう。
 そうだな、、私の血を褒美にくれてやる。
 鬼になってせいぜい私の為にこの花を探せ』

「…いっ!嫌です!」
『お前に選択権などありはしない。』
「わっ、私は鬼になるわけにはいかないんです。
 四鬼さんが"人間のままで"と言ったのです。
 だから鬼にはなれません」
『そんな事、私には関係ない』
何か嫌なモノが近づいている感覚がある。
とても冷たくて、鋭い何か。

懸命にそれを視界に写そうとするも、その冷たい何かを見ることは叶わない。

代わりに桜の目が写したのは青い彼岸花の絵。

ーー青い空はどこまで広がっていたのだろう…
  …深く、、広い、青、、

「待ってください。もしも!
 もしも、昼にしか花開かないとしたら、
 鬼では見つける事は叶いません!」

背中に置かれたままの手が僅かに揺れた。

「この絵の背景は青空です。
 見たままを切り取った絵なのだとしたら、
 これは昼間の絵です。鬼では昼間は探せない。
 
 どれだけ探しても見つかる事なんてありません。
 だったら私を人間まま、生かしてみませんか?
 私はこの花を見てみたいのです。
 たとえ貴方に出会わなくても探すつもりでした。
 目的は一致する筈です」

『、、、、』

ーーだめ、、だった、、か、な、、。

『…鳴女』
『はい。』

ベン


琵琶の音一つ聞こえたと思うと、視界は暗転し浮遊感に包まれた。上も下も意味を成さなく、自分の存在ですら見失ってしまいそうな闇。

闇の中また一つ琵琶が音を鳴らしたかと思うと、重力が戻り、体は四角く開いた橙色の灯り窓へ引っ張られる。吸い込まれる様にそれを通ると、薄明かりの中に現れた板間へ打ち付けられた。

「…っ。」
全身を駆け巡る痛みに、鬼にはなっていないようで、安心感も湧く。

『おや、何か手違いかい?鳴女
 女の子が落ちてきたよ。』

優しげな声に顔を上げて湧き出ていた安心感が跡形もなく吹き飛んだ。

桜の目の前には

四鬼ではない目に数字を刻んだ鬼の姿があったから。
 


-


ページ: