近くて遠い3


桜の耳には童磨が小さく笑う声が聞こえた。
シャっと音を立てて扇を開くと、それを下から振り上げる。
すると扇が通った軌道に氷の柱が立ち上がり、氷にぶつかった魚たちはビチビチと落下していった。
よく見ると氷の柱の中にも魚が閉じ込められている。童磨は桜の腰を抱き上げ、柱の前まで進むと、柱を蹴った。すると、閉じ込められた魚は氷共々砕け散る。

『玉壺も手を出してくるのかい?
 でも残念ながら、君も俺の相手にはならないだろ?
 それとも、やっとその顔、
 いじらせてくれる気になった?
 不思議なんだよね。俺等と目玉の位置が違うから、
 その顔見る度、血管とか神経がどう繋がってるのか
 引き摺り出して観察してみたくてうずうずするんだ』

桜は猟奇的な童磨の発言に息を呑む。
『そ、、それは残念ながら、
 容認する予定はございませんぞ。
 芸術的な私の顔を弄るなど…』

『顔だから駄目なのか?
 では、その壺とどう繋がっているのかというのは
 どうだろう?ほら、蝸牛の殻など割って
 みたくなるだろ?あれと似たようなものさ!』
『蝸牛の殻を割れば、死んでしまうではないか』
『玉壺は蝸牛では無いから、やってみる価値は有る
 幸いにも我等は鬼だから日に当たらぬ限り
 死ぬこともない!ならば少しくらい
 俺の好奇心に付き合ってく、、れ?」

童磨は風が通り抜けたような気がした。
しかし、ただそれだけではない。脇に抱えているはずの娘の重みが無くなっている。
どういうことだろうと、首を傾げて抱えていた筈の腕を見ても、娘の姿は無い。

ーーああ。せっかく綺麗なものを手に入れたのに…

辺りを見回して、羽が一枚はらはらと舞い落ちたのを見つけた。
視線を動かし、上空に浮かぶ娘の姿。よく見ると、半天狗の四半割が彼女を抱えて飛んで行く。

しかし、どうしてもその姿が気に入らない。

ーー何が違う?半天狗(あれ)と俺は、、

  …ああ、そうか、、



     手が違うのだ。


  向けられる手が違う。どうして?

  何故、俺は拒絶されるのだろう…

腕の中にあっても、対抗するための手。拒絶する手。なのに離れていく娘の手は半天狗の、分裂体である空喜にしがみついている。

ーー面白くない。

《人間の娘に逃げられて》

ーー手に入らないなら、

    イッソ消エレバイイ…

童磨の持つ扇から鋭い氷柱(つらら)が放たれていた。


ーーーーーー
桜を抱えて飛ぶ空喜を援護して、可楽、哀絶、積怒が童磨の放った氷柱を打ち落とす。
しかし、3人の間を抜けて、数本が空喜へと向かってしまった。


『っ!!、、桜、すまぬ、、』

桜を抱き抱えて飛ぶ空喜の高度が落ちていき、最終的には二人揃って板間に落ちた。
「空喜さん?!」

体を起こした桜は、自らを守るように落ち、今も横たわったままの空喜の翼を見て、息を呑んだ。翼を突き抜けて氷柱が刺さり、血が羽を染めている。

『儂の事はいい。時期に治るからのぅ、、。
 それに、桜を守っての怪我ならば、
 カカッ喜ばしい事ぞ』

苦悶を滲ませながらも笑みを浮かべる空喜に桜は両の手を強く握りしめた。

「、、空喜さん、私、


 怒りました。」
 


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