近くて遠い5


『鬼は見つかったか』
「……え?」

桜は一瞬何を言われているのかよく分からなかった。なぜなら少年の鬼に、鬼を探している事を話した記憶はあっても、男性にこの話をした覚えはない。
しかし、よくみると見覚えのある物を男性は手にしていた。

「…植物辞典?」
よくみると男性は赤い瞳だ。

「一緒に絵を見た鬼さん…ですか?」
否定を口にしないその姿に、桜は肯定だと受け取ると、「見つかりました。ありがとうございます」と礼を言う。

『桜は怖ろしい、、無惨様を平気で鬼さんなどと
 呼んで居る…無礼じゃ、、怖ろしい…』
聞こえた声に視線を向けると、驚いた事に、主様が意外にも近い場所に隠れ、縮こまっていた。
「むざん、、さま?
 、、そう言えば、皆さんそう呼んでいましたね。
 でも…」

桜は辺りを見渡す。離れた所から心配そうな視線を向けてくる四鬼に、本当に鬼たちにとって、桜は恐れ多い事をしているのだろう。

「……無惨様では、外で呼ぶ時には、不便かと…。
 だから、、その、月様とお呼びして良いですか?」
『………』
ため息を吐き、植物辞典を閉じて立ち上がると、無惨は桜を見下ろした。ここに来て初めて視線を向けられた気すらする。
その赤い瞳を桜は少しだけ怖いと感じたが、それ以上に、この人が居なければ四鬼達の元に戻れなかったと思うと、怖さは消え去る。
反対に湧き上がる笑みを隠す事はしなかった。

『……勝手にしろ。
 花を探す事を疎かにした時は容赦しない』
 
覚えておけと、言葉を残して無惨も消えた。



『桜!儂らも帰るぞ。
 また楽しくなりそうじゃ。』

下階から聞こえた可楽の声に、桜が視線を向けると、いつの間にか移動した主様を空喜の頭の上に、四鬼が並んでこちらを向いていた。

「でも、月様がこの場所が居場所だと、、」
鳴女と桜の位置から四鬼達の居る場所までは、1階分ほど離れているだけなのに、その距離が遠くに感じる。
ーー階段を降りれば直ぐに会える筈なのに。
  触れてしまえば、、離れるのが辛い、、

『何を言っておるんじゃ?もともと儂等のいた場所と
 この城は繋がっておる。
 じゃから、ここを出た事にはならんぞ。』

「………」
鳴女の方を見ると、彼女は黙ったまま、桜の視線にただ頷いた。

胸の奥がゆっくり熱を持って、それが全身に巡る。
嬉しいをも超えて、言葉にできない感情に包まれて、桜は駆け出していた。見つけた階段に片足を下ろしてピタリと止まる。

ーー言える時に、言わなきゃ、、

来た道を戻って、鳴女の前に膝をつく。
「ありがとうございました」
無惨の指示あっての事とは言え、彼女が居なければ、こんなに早く再開する事は叶わなかった事だろう。
だからその気持ちを伝えたかった。
『…変な、、人間です』

表情も声色も変わっていないのに、何故か桜には鳴女が笑った様に思った。

立ち上がって再び降りるべき階段を見る。
ーー今すぐ…

  近くて遠い…

早く、皆の所に帰りたくて仕方がない桜はまた走り出した。
 


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