四の鬼
桜の視界には古びた畳を区切る襖に囲まれた部屋が広がっていた。
『お、目覚めおった』
ちょうど背後からの声、振り向く事が怖くて目を瞑ると必死にゴクリと唾液を喉の奥へと流し込む。
足音そして声。
『思っていた以上に美しく成長したのぉ』
先程より近い位置で聞こえた声にゆっくりと目を開けると桜の視界一杯に鬼の顔が映った。
「、、ひっ、!!」
『あの時喰らわず置いて正解じゃったわ』
伸びた手は桜の顎に触れ嫌が応にもその視線から逃れる事を許してくれない。
『空喜。主もそう思うじゃろう?のう?
ほんに楽しいのぉ』
パシッーー
眼前の鬼の視線が自分から離れたその間をついて桜は触れるその手を振り払い、勢いのまま走り出した。
離れて行くその背を見て可楽の隣へとやってきた空喜は笑った。
『お、足の速さ比べかの?儂は負けぬぞ?』
翼を広げ姿勢を低くする。
『待て待て空喜。
すぐに追いついてしまっては面白味に欠けよう』
さあ、共に遊ぼうぞ。
ーーーーーー
いくら襖を開いても、どれだけ廊下を進んでも一向に外へ出られそうな場所には行きつかない。
桜は走り続ける事はできず。今はどこかの部屋の隅で背を壁に預け、上がった呼吸が鬼に聞こえてしまわぬよう口を手で覆って小さく小さく呼吸を繰り返していた。目元に溜まった涙がゆらゆらと今にも溢れそうだった。
ーーどうして何処にも辿り着けないの、、、
せめて窓でも有れば心細さもいくらか落ち着く事ができたのかもしれないが、残念ながらそういったものは見当たらなかった。
『桜はここかのう?!』
弾む声は近くから聞こえた。
ーー来ないで、、来ないで、、
『むっ。居らなんだ。』
彼方か?などと声は続く。
見つかりはしなかったものの、此処にいてはそれも時間の問題である。桜は物音を立てないように再び動き出す。自分が来たのは右側の襖から。声がしたのはこちら側だったと思う。
少しでも離れようと思えば、それとは向かい側の方へ向かうのが常である。
例に漏れず桜は向かい側の襖へ手を伸ばした。
スパンッ!
しかし、桜の手が触れる前に勢いよく襖は開かれ、羽を背負う鬼と目が合った。
ゆっくりとして見えた。
伸ばされた手は人のものとは違って。鳥の足の様で、輪を掛けて異様なものに映る。
ーー逃げなきゃっ!!
「嫌っ!」
捕まってしまうと思ったその手は触れるわずか手前で動きが鈍くなり、その一瞬の隙で残されていた襖へと逃げ果せる事ができた。残る逃げ道はあと一つ。
桜は急いで襖を開いた。
だか、その足が再び走り出す事はなかった。
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