知ること2


「という訳で、風信子はやはり不発でした。
 彼岸花と同じ球根植物で、原種の色が青紫
 という事は興味深かったですが、
 彼岸花には遠いかと。
 季節が進めば紫君子蘭や、夏水仙など見た目も近い
 ものが出てくるようですが。今はまだ…
 もし月様が気にされる花があるようでしたら、
 確認してみようと思いますが、いかがですか?」
『……暫く任せる』
無惨は先日とはまた違う植物辞典に目を落としていた。

「月様は、、、
 どうして青い彼岸花を探してらっしゃるのですか?」

『………』
「、、すいません。
 少し気になっただけなので、気にしないでください」

桜は退室の挨拶を述べると、頭を下げて席から立ち上がった。

『太陽を克服する為だ』
「え?」
『お前が聞いたのだろう』
「…あ、はい、、…えっと、、
 ……太陽、、克服、、」
『鬼が太陽の下で生きられないのは、
 薬の副作用だからな』
「人に戻るとは違うのですよね?」
『人間は死ぬ。強靭な肉体を手離す事は望んでいない』

ーー薬…?病気だった?
  肉体に執着する程の?

『半天狗が人間ならばと考える事はあるのか』
「…半?、、四鬼さん達のことですよね。
 …考えます。寧ろ皆が人間に戻れたら戦わずに済む
 そう思っています。」

『そうか…』

その後、無惨が言葉を続ける事はなく、再び本へと視線を落とすと、桜は今度こそ退出し、四鬼達の元へと帰った。

ーーーーーー

「今日、月様に四鬼さん達が
 《人間ならばと考える事はあるのか》と
 聞かれました。」
『人間ならばと?
 それで、桜は何と答えたんじゃ?』

一瞬だけ、言葉に詰まりそうになった。この答えはある意味で彼らを否定するモノであるから。それでも、桜は考えを払拭して言葉にする。

「《考えます》と。
 …鬼殺隊に居た時に、鬼を人間に戻す手がかりを
 探している人に会いました。その時思ったんです。
 皆さんと誰からも命を狙われるわけもなく
 心配される事もなく一緒に居られたらと。」

『それは楽しそうじゃのぅ。日の下ならば愛らしい
 桜の顔もますます良く見えるじゃろうし』
可楽は覗き込むように桜を見つめる。
「それは、、私の目的とは違いますけど、、」
『目的?不満な事でもあると言うのか。腹立たしい』
「不満とは違いますが、何と言うんでしょう?
 丁度良い言葉が見つからないのですが、そうですね…
 "同じでありたい"とでも言うのでしょうか?」

『同じとな?』
積怒が考えるような仕草をしたところで、空喜が割り込むように間に入る。
『なれば、桜が鬼になるのが手っ取り早い。
 誰も桜を鬼にする気は無いのだがな。カカカッ』

「私も鬼になりたいとは思っておりませんけどね」

一息を入れて桜はまた口を開く。
「もしも、、もしもですね、
 私に何かあってもう助からない
 なんていうことが起きた時は…」
『そんな哀しい事は聞きたくない』
哀絶は桜に縋るように抱きしめた。桜もそんな哀絶を宥める様に頭を撫で「大丈夫。聞いてください」と言葉を続ける。
「もしもの時は、私の事は食べてしまってください。
 だって皆さんと一緒に居たくて選んだ道ですもの。
 最後まで一緒にです。

 私はきっと美味しいですよ。稀血ですからね。
 でも、喧嘩だけはしないで仲良く皆で食べて下さい
 そうすれば皆さんと私は"同じもの"です」

『死んでしまいたい。そういうことか?
 そんな話なら儂は許さんぞ』
積怒は桜に怒りを向ける。
「いいえ。死んでしまうつもりはございません。
 最期まで、生きると約束をしましたし。

 ただ、人間は死ぬのです。
 だから、私の気持ちは覚えておいてください」

桜は四鬼達の顔をみて微笑むと、哀絶は桜の体を離した。

「話が逸れてしまいましたね。
 皆さんが人間ならば、命を狙われない事以外にも、
 良いことがあります。
 一緒にご飯を食べられるのです」
『おお!桜のつくる料理が食べられるのぅ。
 一緒に作っても楽しいやもしれん。
 寧ろ買い出しからか?
 いやいや、"何を作るか"そこからか…
 一緒にご飯を食べる目的一つで、
 こんなに楽しい事ばかりじゃとは!
 のう!哀絶よ主に悲しんで居る暇はないぞ』
『…それは哀しくも、良いことやもしれぬのぅ』
話を振られた哀絶は困った表情を両口端をわずかに上げる事で隠そうとしている様だった。
桜は何処か違和感を感じて、積怒へ目を向けたが、積怒も腕を組んだまま何もいわない。
「せき、」
『桜。いつもご飯を食べる時分ではないか?
 桜は意外と抜けて居る故、
 放っておくとまた倒れてしまう……』
『今日はな、キジを捕まえたぞ』

風邪をこじらせる前は、肉は嫌なら食べなくても良いという方針の空喜であったが、たまには肉も食べなければいけないと、考えを改めた。空喜の言葉を聞いた哀絶は、桜より先に席を立つと、台所へと向かっていく。
動物を捌く事に抵抗のある桜の為に肉の下処理に向かったのだった。

『気にするな。あやつあれで桜の役立てるならと
 喜んで居るのじゃから、やらせておくが良い。
 それより桜はしっかり食べて元気であってくれ』
空喜は桜に向かってニカっと笑った。
 


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