知ること3


桜は外に出てぼんやりと月を見上げていた。
どうにも《人間に》という話をした時の反応が引っかかって仕方ない。

ーー空喜さんも喜んで話に入ってくれると思ったのに…
  皆さんは、それを望んではいないのですね…。

以前居眠りをしていた時に、舌の長い鬼に襲われ、抉れてしまった木は今、半分が枯れ半分に葉をつけていた。
桜はその木に額をつけて「ごめんね」と呟く。

『こんなところにおったか!
 他より早く見つけられたとは喜ばしい限りじゃ』
振りかえると笑顔を浮かべた空喜が近づいてきていた。
『まだ、夜は冷える。ささっ中に戻ろうぞ?』
「……」

桜の反応がない。立ったまま寝ているわけではないだろうが、きっと何かが戻る事をよしとしていないのだろうと、空喜は思った。

『では、少し歩いてから戻るとしようかのぅ?』

空喜は桜の手をとった。星空の下、空喜は桜としばしの散歩へと歩き出す。


『のぅ桜、どこまで行けば星は掴める?』
いくらか歩いた後に、空喜はそんな事を口にした。
「…?ほし?……ぁぁ、星ですね。
 えっと、、私が無理な事は勿論ですが、
 飛べる空喜さんでも、残念ながら難しい事ですよ。

 星は空の上のずっと上にあって、そこには空気がない
 のだそうです。だからそこでは生き物は蒸発すると
 昔、読んだ様な気がします。
 記憶がある程度なので、間違っていたらすいません」
『なんじゃ、一つくらい持ち帰って桜に渡せば喜んで
 くれるじゃろうかと思ったが、出来ぬとは残念じゃのぅ』
「小さく見えますが、実はとても大きいらしいですよ。
 光って見えるのも太陽の光を反射しているだけで
 ほとんどの星は自ら光を発している訳では無いと…」

『それは大丈夫じゃ!桜を写せば星も輝けるじゃろうて』
「その理屈はよくわかりませんよ」
張り出した根に引っかからない様、空喜は桜を導く。先程から少々山を登っていた。
『何も生きられぬとは、儂には向かぬところじゃな』
カカッと笑い声を上げる。
「ですが、空にはこんな物語もあるのですよ」
桜は織姫と彦星の話を空喜に話す。
1年に一度出会える恋人同士物語。

『儂は1年に一度など耐えられそうにないぞ。
 積怒が目を光らせていようが桜に会いに行くわ!!』
「怒った帝天様はもっと怖かったのではないですか?
 例えば、月様が怒るみたいな?」
空喜はピリッと体を震わせるた。
『………そ、、それは、、流石に、儂でも無理じゃ……』

周りは高い木がへり、いつの間にかなだらかに開けちょっとした物見平(ものみだいら)のような場所まで来ていた。
辺りが開けた事により、風がよく通る。歩いて熱った体の熱を早々に冷やしてゆく。

「先程までより空が近いです。星が綺麗…」
『歩いた甲斐があったというモノじゃな』
空を見上げる桜の横顔を空喜は満足気に見つめ、その後に空へと視線を移動した。

「クシュン…」
『風がよく吹く。冷えたじゃろうか?』
「大丈夫ですよ。空喜さんの方が寒そうです」
『カカッ。そんなに柔に出来て居らんぞ』

『そうじゃ』と言うと、空喜は桜の背後に移動し、抱きしめると、更に羽で包むように風よけとなった。

『これで幾分寒くないか?』
「わ、、私は、、その、助かりますけど、、
 空喜さんが冷えてしまうのではないですか?」
『大丈夫じゃて。儂は桜の温みを貰って居る』
「えっと、、それはそれで恥ずかしいと言いますか…」
『カカッ。喜ばしい。喜ばしいのう』

「・・・・・・・」
『・・・・・・・』

「あの話、あまり皆さん喜んではいない様でしたね」
『人間に。というやつじゃな。
 皆それぞれ喜んで居らん訳ではないのじゃがな…』

『暫し長う話やも知れんから、座って話そうかのぅ』
空喜は桜を抱き上げると、あぐらをかいて座り、そこへ桜を下ろす。立っていた時と同様に後ろから抱きしめている事に変わりはなかったが、肩に空喜の顔が軽く乗る。

『・・・・桜は人であるから価値がある。
 じゃから、風邪で桜が苦しんで居っても、
 鬼にするという選択肢は消えたのじゃ』
「稀血とかそういう話ですよね?」
『それだけでは無いんじゃがな。』

鬼にして自我が残っている可能性は限り無く低い。鬼となった桜と、桜としてもう一度言葉を交わすまでに、一体どれだけの人間を桜が食べなければいけないのか予想も立たない。
命で苦しんだ桜に、命を喰わせるなどと言う事はしたくなかった。と、初めて四鬼たちが自分を鬼殺隊の元へ戻した訳を聞いた。

『それとな、、
 儂らは、鬼であるから今こうして居られるんじゃ』
「それは…どういう意味ですか?」

『桜になら話しても、なんの問題もないじゃろうな…。』

空喜は『うむ。』と小さく呟くと、ゆっくりと話し始めた。
 


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