伝えること
気持ちを伝えると決めたものの、こんなに早くその時が訪れてしまうとは思っても居なかった。
考えれば考えただけ気持ちの糸は、絡まっていくように桜の心を締め付ける。きっとこの糸を解いてくれるのは、誰でもない四鬼等なのだと思う。でも、この気持ちはすごく我儘なものだ。
「はじめは皆さんが私に向ける気持ちを、
理解出来ませんでした。」
父も母も、詠もしのぶも、蝶屋敷で出会った人たちの事も桜は好きだ。でも、四鬼達が向けるのはそれとは違う、それよりももっと深い"愛する"という気持ち。
しだいに理解したいと思うようになった。
かけられ続けた優しさに応えたいとも思った。
それでも"愛する""愛される"事がよく分からなかった。それでも時間をかけて彼らの事を特別だと思うようになっていった。
特別なのは自分も四鬼達の事が好きだからと知った。それが、"愛しい"というものらしいだと理解もした。
それでも桜の中ではその気持ちを悩ましく思ってしまった。
母には父が居たように、祖父には祖母が居たように…。いつだって一人には一人。
それが"普通"であり"当たり前"。けれど桜は積怒、哀絶、可楽、空喜の中から一人だけを選ぶ事はできなかった。
皆が好き。一緒に居ることも、触れる事も、触られる事も安らぎになる。鬼である彼等と憚られずに共に過ごしていければとまで思う。
「でも、一人を選べないなんて、本当は皆さんに
流されているだけで、私の心ではないのでは
ないですか?私は愛する事など理解
出来ないのではないですか?」
敷布にぺたりと座ったまま、桜は思いの丈を紡ぎ続けた。好きと言いたい。愛しているのだと言ってしまいたい。けど、気持ちに自信が無い。それに元々器用な人間では無いのに4人のことが好きだなんて、4人から与えられる愛情に応えていくだなんて、出来ることだとも思えない。
先程とは反対に、積怒が桜に手を伸ばす。桜の頬に触れた積怒の手は、俯き、視線を下げた桜の顔をクイッと上を向かせた。
『儂らは桜に見返りなど求めて居らぬ
桜が儂らのもので、儂らが愛でて居れれば
何の問題もない』
『そうじゃのう。拒絶されるのは楽しくない故
無い方が良いが、多少嫌がる桜を籠絡すると
言うのも、一興やもしれんのぅ』
腕を組み、ペロッと唇を濡らす可楽の仕草は艶っぽい。
哀絶が目の前に膝をついて桜を抱き締める。
『流されれば良い。溺れて仕舞えばいい。
儂ら無しに生きるなど考えられん様になれば良い
それでないと哀しい。
儂は既に桜無しなど、
この世にとどまる意味が見つからぬ…』
『桜よ。儂、考えたんじゃがな。昨夜言うた様に
儂らは元は一つじゃ。ならば、一人を選ぶなど
考えんでも良いのじゃよ!
可楽と同じとは考えたくは無いが、考えんで
良くなれば、桜には喜ばしい事じゃろう?』
「皆さん…。」
《だって心は私のものよ》
抱きしめている哀絶の背をぽんぽんと叩くと、哀絶は哀しい表情を浮かべながらも、桜を離して座り直した。
四人が元は一つだなんて、一人を選べない桜にとっては都合の良すぎる言い訳である。知った後でも、彼らを一色単に考えたくはないし、そのつもりもないが、彼らが"一人だけを選べない事"を良しと受け取ってくれるなら、今はそれに縋っていたい。
「空喜さん。…好きです。
貴方の明るさにいつも救われています。
また、夜空の散歩に連れて行ってくださいね」
『うむ。喜ばしい!
巡る季節それぞれ、隣においてくりゃれな』
「是非、よろしくお願いします。
…哀絶さん。好きです。
貴方の挙動に、動悸がおかしくなりそうですが…
世話を焼いてくれてありがとうございます」
『指一本動かさなくていい程に、桜を構って居りたい。
嫌われては哀しい故、抑えて居る』
「流石に、、出来ることは自分で致しますよ」
むぅっと不満そうな顔をした哀絶に、桜の頬が緩む。
「可楽さん、、好きです。
イタズラなど、少々困る事が多いですが、、」
可楽の若干強めな絡みが思い出されて、頬が熱を持って顔を隠す。
「……困ります、、」
『なんや、儂、他と毛色が違くないかえ?』
桜の目の前にやって来ると、可楽は隠す手を引き剥がし、顎に手を添えて顔を近付ける。唇が触れるか触れないかの近さで『どういう事じゃろうのぅ?』とニヤリと笑う。
「で、、ですから、その、、こういう所がですね…」
『儂には分からんのぅ?』
唇を離れて、可楽の顔はその近さを保ったまま首元へと下がって行くと、肌に口付けた。
「!ひっ!!」
『いだだだだだぁー!!』
哀絶が可楽の髪の毛を掴んで引っ張っていた。
桜から引き離すことに成功した後、何も口にせず、侮蔑の表情のまま哀絶は可楽を直視し続ける。
『何じゃその目は!哀絶じゃて隙有らば桜に
抱きついて居るではないか!
儂じゃて桜を楽しむ権利はあるじゃろが』
『権利はあってもな可楽よ。
桜の話を思っクソ遮って居る奴が、
主張できた事では無いぞ』
『空喜にそんなこと言われるなぞ、楽しくないわ!』
『鳥要素が含まれて居るが
喜ばしい事に儂、賢い故のぅ』
カカッと笑い声のあと、落ち着いた彼らの視線は桜へと再び集まった。
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