伝えること2
「勢いで言い続けた感がありますので、間が開くと
少々言いにくくなるものですね…」
『では、あと一人はお預けじゃな。これは
"日頃の行い"と言うやつじゃ!カカッ!愉快愉快』
可楽という者はやはり"楽しい"に敏感に反応を示す。そして積怒にはやたらと突っかかりたいらしい。黙ったままの積怒であったが、桜には怒っていると言うよりは少々残念そうな顔に見えた。勿論可楽への苛々は募らせている様だったが。
「可楽さん。ダメですよ。
それに積怒さんの日頃の行いは悪くありません」
『むぅ』と口をつぐんだ可楽だったが、空喜の方へ近づいて行くと『怒られてしもうた』とニコニコ笑っていた。結局は桜に構ってもらえる事が可楽の中では良い事なのであった。
さてと、桜は胸に手を当て深呼吸を一つする。ずっと早鐘を鳴らし続けている心臓は、手首を切り付けた時以上に生きている事を実感させる。
「積怒さん、私…」
『桜。儂らのもので有れ。
儂らの為に生きて居れ。』
積怒の言葉に体の内側から、ブワッと湧き上がった感情は涙となって桜の頬をボロボロとこぼれ落ちる。
泣きたいわけじゃないのに、きっと、嬉しいという感情なのに、また目が腫れてしまうと思っても溢れる。
「積怒さん、すきです。
火傷治ってよかった、、
消えてしまわなくて、本当によかった、です」
『積怒』
可楽がニヤニヤした顔で桜を顎で指す。
ムッとして動かない積怒の背を哀絶がぽんと叩いた。本当は二人が言いたいことも分かってはいたが、怒りの性質が邪魔をする。
ーー泣かないで良いんだ
見ていたいのは笑った顔だ
桜、、桜、桜…、、愛しの、、人。
僅かに手が伸ばすものの、それはただ拳を握って降りてゆく。
パシッ
『……』
掴んだ異形の手を見て積怒は空喜に視線を向けた。
『行くべきじゃろ?その方が桜が喜ぶはずじゃ』
ニコリ笑う顔が普段なら苛々を呼び寄せるのにそんな顔を桜に向けられたならと思ってしまった。掴んだ空喜の手は桜の方へと積怒を導き、そして離れて行った。
目の前に背を丸めて涙を拭う桜の姿。
何と声をかければ良いのか分からない。
それでも笑って欲しい。愛らしい声が聞きたい。
《積怒さん、すきです。》
桜の前に片膝をついてその小さな体を引き寄せた。
腕の中に収さまる温もり。
ーー何故こんなにも小さい
何故こんなにも弱い
何故こんなにも儚い
何故こんなにも愛おしい。
『桜。愛しい』
ぎゅっと抱き締める。壊れてしまわない様にと思いながらも、力が入ってしまう。
体が邪魔だと思うほどに桜に近づきたい。
「…積怒さん、、痛いです、、」
桜がそう言っても、腕を緩めたくない。
離れたくない。でも、仕方がない、、、
ゆっくり腕の力を抜くと、腕の中の桜と視線が交わる。潤んだ瞳に直視されて、口からぽろっと言葉が溢れた。
『腹立たしい、、』
「……え?」
『何故こんなにも掻き乱す』
「、、、」
桜の言葉が音になる前に積怒は桜の唇を塞いでいた。
それはきっと短い時間。
それでも永遠に続いて欲しいと思える時間。そこに怒りなど無い。それでも積怒は存在している。
前に空喜が、喜び以外の感情を知った時、己の存在はどうなってしまうのかと言っていたことがあった。その時は『何を馬鹿なことを』と苛々したが、今なら『心配など不要だ』と言えるだろう。
柔らかな温もりにもっと深く触れたくて、口付けは桜の唇を割る。桜から小さく吐息混じりの声が落ちた。
『はっ!
は!!…破廉恥じゃー!!』
『いい加減離れよ!』
『…儂の、桜、、』
積怒と桜の間に"ばーん"と言わんばかりに割り込む空喜に、桜の隣から積怒の肩を押し返す可楽。そして哀絶は背後から桜を抱きしめた。それぞれがやきもちを妬いて、それぞれが桜に触れたくて、桜に集まる。
自分を囲んで、あーだ、こーだと言い合う姿が、桜には可愛く見えて仕方がない。
ーー彼らが私の大切な人。
くすぐったい気持ちに頬が緩む。
越えられない夜だってそれで良い。
彼らが居れば、それでだけ見える景色が変わる。今は夜で光など差さないのに、とても明るく目に映る。
ーー好き、、だけじゃ足りない…
空喜、可楽、哀絶に囲まれた桜が動く。それぞれの頬に唇が触れると、言い合う言葉は途切れ、唇が触れた頬に手を当てた三鬼が驚き顔で桜を見た。
「…はっ!!
、、えっと、、き、着物整えてきます」
自分が何をしたか理解が追いついた途端に恥ずかしく居た堪れなくなって、桜は立ち上がると、逃げるように襖に急いだ。
そんな背中を積怒が呼ぶ。
きっと自分だけ無いのか?という事なのだろうが、今更戻って、、など出来るはずもない。そのまま部屋を出て襖を閉め切る前に隙間から積怒を見た。
「…積怒さんは、、」
ーー今なら可楽さんの気持ちがわかる気がする…
好きな人には意地悪もしてみたい。
「口付けましたでしょう、、だから…
私からは…、、おあずけです」
『なっ…』
桜は続く言葉を待たずに、四鬼達のいる部屋を後にした。
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