沈む


『玉壺が持ち込んだ不確定な情報があってな、無惨様が
 《情報が確定したら半天狗と共に其処ヘ向かえ》
 とのお達しじゃ』
「……月様が、、ですか、、」

『何じゃ桜。
 儂らがやられてしまうとでも思って居るのか?』
「そっ!…そういうわけではありませんが、、」

ーーまたどこかで、他の人の血肉を口にするのですね…
  なんて、言えるわけがない…

  私だけで満たしてあげられたら良いのに…

『心配など不要じゃ。忘れて居るやもしれんが、
 儂らは上弦の肆じゃぞ?それに、
 儂らだけでも十分なのじゃろうが、今回は玉壺も居る
 面白くはないが、奴が情報源な故、致し方なくてのぅ

 そうじゃ!
 何かあっても玉壺の奴を贄にして儂らは桜の元に帰る
 玉壺の取り乱した顔は見ものぞ。
 カカカッ!そう思えば、面白くもなってくるわ。』

敷布に座った桜を真ん中に、周りを囲む四鬼と主。お互いが手を伸ばさなければ触れる事のないその距離が桜は少しだけ寂しい。
彼らを目に写すことすら怖くて仕方なかったのはもう遠い日になっており、今は目に写っているのに寂しいと思ってしまう。
『桜は不安なのか?
 そんな思いをさせてしまうのは哀しい…』
『ならばこうせぬか?!
 儂は桜と共に留守居をして居る。
 他は無惨様の言い付けをこなしに行く!
 そうしたらば桜も寂しい思いはせぬ故、
 喜ばしいじゃろう!!』
『何故空喜が残る話になるんじゃ腹立たしい』
『思いついたのは儂じゃから、その権利が有ろう?!』
空喜は羽を広げて桜の元に来ると、そのまま抱きついて頬を寄せた。
『カカカッ!何が権利じゃ!!人間じみたもの言いを。
 人間の世では権利を主張するのなら、
 まずは義務を果たせと言われるらしいぞ。
 空喜に出来ようもない話で笑えてくるわ』
頬を膨らませた空喜をよそに、距離を詰めた可楽は桜の髪を一房掬い取りそれに唇を寄せた。
『人間の真似事などくだらん!
 さっさと片付けてくれば良いだけの話じゃろが!
 頭が足りないのか腹立たしい』
積怒はフンッとそっぽを向き腕を組む。桜の前には哀絶がやってきて、膝を下ろした。

『積怒もああ言うて居る。じゃから大丈夫じゃ。
 儂も桜と離れるのは哀しいが、桜が悲しいのは
 もっと哀しい、、
 だから、儂らを信じてくりゃれ』

膝に乗る手を取ると哀絶は自分の頬へと運んだ。

『儂は行きとうない。怖ろしい。怖ろしい。
 櫻の側にずっと在りたい』
『主様のことは儂らが守る。のぅ積怒!』
『フンッ!言われずともそのつもりじゃ』
『此処で行かねば、無惨様の意思に反してしまう…』
『分かった!儂も桜と離れる事を辛抱する。
 たった一晩じゃて、あっという間じゃ!
 その一晩が終わればまた賑やかに在れる。
 喜ばしい事じゃ。な、桜』

「私が寂しいなんて言ってはいけませんね…。
 ただお願いをしても良いですか?」

周りを囲む空喜、可楽、哀絶、主と目が合い、そっぽを向いていた積怒に桜は微笑んだ。

「その日、一晩だけ我慢します。
 だから、、……帰って来てくださいね。

 それとーーーーーーー」



ーーーーーー

『おやおや半天狗お一人か?
 ガヤガヤと五月蝿い奴らを引き連れて
 来るものかと思っておりましたぞ。

 何にせよ随分と余裕の様子で…
 折角私が掴んだ情報を無駄にする様な事だけは
 ない様にして頂きたいですからな。』

『偉そうによく回る口じゃ。
 玉壺こそ、五月蝿い故、口は一つで十分じゃ。
 要らぬ片方は糸でも使って縫い付けておくが良い』

『機嫌が悪そうですなぁ。おおそうか!
 見送りにも来ていないところを見るに
 遂にあの人間に見限られましたかなぁ?!
 半天狗の払い下げでも、私は喜んで頂戴
 いたしますぞ!稀血な上、あの美しさ。
 未だに人魚の材料足り得る人間は
 見つかっておりませんからなぁ。ヒョヒョヒョ』
『欠片でも貰えると思って居る玉壺の考えが
 浅はかで怖ろしい。
 桜は儂らのモノじゃ。何一つやる物など無い』


ーー儂は帰らねばならぬ。
  死ぬ事が怖ろしい。
  帰れぬ事が怖ろしい。

  桜の目が覚めぬ事が怖ろしい。
  じゃから帰るのじゃ。
  目覚める前に屋敷に戻って、一番にあの目に
  写るのよ。

  目覚めの挨拶を交わして…
  また、儂らの時間が始まるのじゃ。
  
  それだけの為で良い。
  それだけの為に儂は帰る。



沈む陽光は、その夜の始まりを示していた。
 


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