その夜


『急がねば…急がねば…
 あの御方はお怒りじゃ…
 早う、早う、皆殺しにせねば…』

ーー桜も待って居る…

何も身構える必要はない。ただ、当たり前に襖を開けて部屋に入り込み、何もおかしな事はないと、その命を刈り取るだけ。疑問にすらさせなければ良いだけ。鬼狩りの刀の供給源を絶てば、柱と言えどただの棒切れを振り回すだけの人間。

ーー早う、早う
  桜が目覚める前に…

  二人の鬼狩り??

とぼけて部屋に入り込み、目視(もくし)の後、思いの外、二人の鬼狩りは直ぐに戦闘体制に入った。主は天井へと飛び上がりながら悲鳴をあげる。

『やめてくれぇ。いぢめないでくれぇ。』
つぅーっと顔に痛みが走る。
『痛いぃいい…』

避けたはずなのに、顔は斬られている。
ーー玉壺の奴、儂にていよく鬼狩りをあてがったか…
  一人は柱…一人は、、小童か…。

小童の方の鬼狩りの、炎とは何処か違う嫌な光を纏った刀が迫り、主は天井から落ちる事でそれをかわした。
『ヒイイイ』
ーー怖ろしい、、儂は悪い事はしておらぬ
  何故傷つけられねばならぬのだ…

鈍い音を立てて床へと落ちた。しかしその後、体が浮き上がり、腹部の痛みと共に壁まで飛ばされ頭を打つ。飛ばされながら見えたのは桃の着物を纏った女。

ーーいや…アレは鬼。…そうか、アレが桜の言った
  人間に戻ろうと足掻く鬼か。
  余計なことを話し、桜を悲しませた元凶…
  …許さぬ、、

鬼の女を引き裂こうと主は体の向きを変えた、、、その途端冷たい風が吹く。
見える景色がおかしかった。飛んでも居ないのに浮きあがり、首が熱い。
ーー……?
『ヒィィィ…斬られたああ』

頸が床を跳ねる。

ーー主様は隠れて居れ。
  後は儂らが始末を致す。


  楽しいのう
  腹立たしい

跳ねた頸はもう一度床へとつかないうちに形を変える。一方は団扇を持つ半身に。一方は錫杖を持った半身に。

『まずは一匹、玉壺にでもくれてやれ。』
『言われずともそのつもりじゃ。』

団扇が風を起こすと、主の頸を落とした柱の方の鬼狩りが建物の壁を突き破り飛んでいく。玉壺の首でも落としてしまえば、それもまた一興だと。

『カカカッ。楽しいのう豆粒が遠くまで
 よく飛んだ。なぁ、積怒』
『何も楽しくはない。
 儂はただひたすら腹立たしい…』

ーーちょこまかとネズミの様に。
  腹立たしい。
  主様の頸を落とし居って。腹立たしい。
  煩わせるなど腹立たしい!

積怒の錫杖が床を突くと、まるでその怒りを撒き散らすが如く、辺りは稲妻が吹き上がった。

『カカカッ、そのまま全部始末して良いぞ。
 その方が早う帰れるからのぅ』
『チッ!』

ドドン!!

ーー何の音じゃ

積怒と可楽の視界が飛ぶ。
『これは楽しい。おもしろい。」
ーーなにが楽しいというのだ。
  腹立たしい、腹立たしい。
  出し惜しみなど時間の無駄じゃ。

『初めて喰らった感触の攻撃じゃ』
かろうじて首の皮一枚といった状態で繋がっている可楽の視界はひっくり返っていた。鉛玉を飛ばした童が近づく姿が逆さに見える。

ーー斬れ。斬れ。
  空喜、哀絶、さっさと終わらせてしまえ

「斬ったら、斬っただけ分裂する!
 若返ってる!強くなるんだ!」
ーー気づくか小童。しかし、もう遅い。

一息遅く、童に落とされた積怒と可楽の首は、形を変えて人を形取る。形を成した空喜は羽を広げて小童の方の足を捉えて飛び上がり、哀絶は槍を童に突き立てる。

ーー桜、、
  すぐに帰る。しばし夢の中で待って居れ
  


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