その夜2
桜はふかふかとした布団に横たわり夢をみる。
一人夜を過ごすのはやはり寂しいと思ってしまう。だからあたたかい夢をみる。みんなで過ごすいつもの日常を夢に見る。
《お願いがあります。
私の血を連れて行って下さい。
増血剤を飲みますから、私の事は気にしないで下さい
痛む事もありません。
一人の夜は嫌ですから、目覚めてしまわない様
睡眠薬で眠ってしまいます。
寂しいのは嫌です。だから、、
どうか無事で帰って下さいませ。》
目覚めてこの目に映る姿を心待ちにしていますから。
ーーーーーー
『チッ…』
桜の稀血を貰って里を潰しに来たというのに、柱でもない人間に此処まで手こずるなど四鬼達は想像もしていなかった。
決して柱の様に強くはない。それなのに息の根を止めきれない。
鬼の女も悉く邪魔をし、それが鬱陶しくなり可楽が鬼狩り達を建物ごと粉々に吹き飛ばした。
『カカカッ随分見晴らしが良くなったのう』
『む!居った。居ったわ!
鬼の女、瓦礫に潰され身動き取れずに居るぞ
カカッ!早う殺してしまおうぞ』
『のらり喋って居らんで、
早う行かぬか腹立たしい』
ーー?小童の刀に火とな?
『小細工した所で儂には勝てぬ。斬られたとて
痛くも痒くもないわ』
空喜が羽を広げて小童へと向かっていく。
炎を纏った刃が振り上げられた。
その紅い、赫い燃える刃を見た途端、瞼の裏には無惨の記憶が見えた。無惨を追い詰め、頸を斬りかけた剣士と刀。それが目の前の鬼殺隊士の姿が重なって見えた。
「ヒノカミ神楽 日暈の龍頭舞い」
剣士の姿に重なり、動きを鈍らせてしまった事は確かだった。しかし、その隊士の動きは早く、気づいた時には向かって行った空喜だけで無く、後ろにいた可楽、積怒の頸を落とされ、そのうえ三人共に舌にまで斬撃を喰らわされていた。
ーー何故じゃ。何が起こった?
『何じゃこの斬撃は!!再生できぬ!!
灼けるように痛い!』
『落ち着け!見苦しいぞ可楽!!
遅いが再生自体はできて居る!』
ーーそれよりも!そんな事より主様は?!
腹立たしい!!哀絶も斬られて居るじゃと?!
これでは誰が主様を守ると言うんじゃ
『面白うない!早う付け!!
早う再生せぬか!!』
ーー主様…逃げてくりゃれ……
主様さえ長らえば、何度でも戻り戦う。
桜の、、桜の元へ帰る為に…
桜の姿を思い出すと、不思議と力が蘇るような気がした。斬られた頭は再び元の場所へと帰り、体が軽くなったように動き出す。個々に戦っていた四鬼達はお互いの位置を把握して主様を逃す為に力を振るう。
可楽が団扇で隊士を吹き飛ばした。あとは積怒が雷を落とせばその動きを封じられる。
しかし、鬼の女が積怒に襲い掛かっていた。錫杖が地面に着くかどうかのその一瞬の事だった。
気づいた時には舌打ちをする暇もない。
そんな積怒の前を哀絶が横切り、そのまま槍で鬼の女を木へと縫い止めた。
横目でそれを見た積怒は錫杖を握る手に力を込める。
腹立たしい。何故主様を守れぬ。
腹立たしい。何故約束を守れぬ。
腹立たしい。鬼狩りが。
腹立たしい。また儂から奪う。
儂らは桜と共に有る事しか望まぬというのに。
力が足りぬ。
だから守れぬ。
儂は儂が……腹立たしい。
握った錫杖が、腕ごと体を離れて行く。
何故、何故、何故と誰も答えることのない疑問を投げ続けていた。
ーーーーーー
『そうじゃ!桜の血を連れていく代わりに、
儂の羽を置いて行こう。』
空喜は羽を2、3引き抜くと、髪飾りのように桜の髪に飾った。
『なっ!ならば儂は、これを預けるとするかの!』
可楽はそう言うと、羽織から付いているぼんぼりを一つ外して桜の手の上に乗せた。
『良いか。贈るのでなく、預けるのじゃからな』
ぽんぽんと頭を撫でて離れて行くと、積怒が桜を呼ぶと同時に何かを投げて寄越した。取り落としそうになりながらも受け取ったその手の上には金色の輪っかが一つ。
顔を上げても積怒は腕を組んでそっぽを向いてしまった。
『槍は置いていけぬ…』
「まっ、待って下さい!
これでは今生の別れのようです。
私、嫌ですよ!」
『桜の為ではない。
必ず帰るという未練が欲しいだけじゃ』
哀絶は桜の頬に手を添えて唇を重ねた。
『置いて行くものが無い故…』
「ど、どう言う理屈ですか…」
『儂に愛された桜が悪いのじゃ』
『それでは哀絶ばかり思われてしまうでは無いか!
そんな面白く無い事、儂は許さんぞ!』
「え?!ちょっと!皆さん待って下さい!」
結局皆、桜に口付けた。可楽は目元に。空喜は手の甲に。積怒は首元の痣の上に。そして哀絶は再び唇に。
「もう、、帰って来てくれなければ
嫌いになってしまいますからね…」
『嫌いでも桜は儂らのものじゃ。』
『嫌われても儂らは桜を好いて居る』
『じゃから何の問題も無かろう』
『もう休め…行ってくる。』
「いってらっしゃいませ。」
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