ひいろが倒れた音と一緒にカランと乾いた音がした。
匡近はすごく嫌な予感がする。
「…しのぶちゃんもしかして、、」

更に木の影から隠が現れる。手の上に煙を燻らせる香炉を持っていた。きっとあの煙は藤の花を混ぜた物。
ーーなんで?

匡近としのぶの日輪刀は交わり、力比べ状態になっていた。といっても、力比べとなれば匡近に武があるのは明白。しかし、匡近はひいろをしのぶから遠ざけたいだけなので日輪刀を抜くつもりも無ければずっと力の加減も考えている。
「なんで私がここに来るに至ったか分かりますか?」
「分かったら苦労しない。よね…」
「不死川さんから後藤さんに"粂野さんに藤の香を届けて欲しい"って鴉が来たんですよ。
 あの、不死川さんが鴉飛ばすなんて珍しいからどういうことかと、居合わせた私も来たって訳です。
 まさか鬼を連れて戻るなんて思いもしませんでしたけど」

「実弥が藤の香を頼んだ理由は分かるような、分からないようなって感じだけど、だったら尚更あの子を斬らせるわけにはいかないっ!!」
鞘のままではあるが、本気でしのぶを止めなきゃいけないと匡近は気持ちを改めた。



ーーーーーー


「あらあらー。どうしてここにしのぶが居るのかしらぁ?」
匡近としのぶがお互いの主張の為に刀を交えている中、その雰囲気に不釣り合いとしか言いようのない声が割って入った。

「ね!姉さん!!?」
「と、実弥!!?」

しのぶの姉、そして花柱である胡蝶カナエ。そしてその後ろをばつの悪そうな顔をした実弥が現れた。
「粂野君、先に不死川君と会ったので、手当の方はしておきましたよー」
匡近は休憩をとったその時に、カナエに向けて実弥の怪我を見てもらえるよう鴉を飛ばしていたのだった。不本意に稀血に頼る事になってしまった後悔というか、こうでもしないと、実弥が蝶屋敷に立ち寄ることなんて無いだろうからという匡近なりの思いやり。
どうやらカナエも任務に出ていてその帰りに実弥を発見した様子である。

「で。これはどう言う状況なのかしら?
 説明、お願いできますか?
 しのぶは刀を引きなさい。」

ニコリと首を傾げてカナエは笑った。
でも、その前にとカナエは後藤に藤の香を消させ、地面に倒れているひいろの元へ行くとその体を抱き起こす。

「大丈夫ですか?ごめんなさいね。
 私の妹が早とちりをしてしまって、、」

「………何で?」
力の入らないひいろは言ってしまえば"頸を落とし放題"の状況である。なのに現れたこの人は刀も取らずに柔らかく笑う。それが不思議で仕方ない。
「あなたの事は少し不死川くんに聞いたのよ。
 私はね、出来る事なら鬼とも仲良くなれたら良いなと思うの」
「ちょっと!!姉さん!
 それは鬼よ!鬼を斬るのが鬼殺隊でしょ!!」
「しのぶ、大丈夫よ!だってこの子、とっても可愛いもの」
「そんなの理由になる訳ないでしょう!!」
「すっごく大切な理由よ?
 もちろん、しのぶも可愛いわ。
 だから、解毒剤を頂戴」
「"だから"って方向性がおかしいじゃない!」
「しのぶちゃん、、お願い。
 あの子は、、ひいろは人を傷つけないから」
カナエだけでなく、匡近にまで見つめられしのぶは降参といった様子で懐から小瓶を取り出す。匡近はありがとうと受け取るとひいろの元へと駆け寄った。カナエの腕の中で匡近と視線が合ったひいろは、すこし困った顔を匡近に向けるのだった。解毒剤を口元へ運んだ匡近の手から小瓶の中身を飲み干す。
「ごめん、守りきれなくて、、」
ひいろの体は思うように動かない。それでも匡近の言葉に首を振った。
彼女にとってはそれよりも、心配をかけてしまったこと、そして、仲間ともめる原因になってしまった事が心苦しく、手を強く握りしめていた。
「匡近、、わたしの、せいで、、
 ごめん、、な、さい、。」
「大丈夫。気にしなくて良いんだ」
頭を撫でるとひいろはくすぐったそうに目を細めた。
「粂野君この子蝶屋敷に運びます
 良いですね?」
匡近はカナエの言葉に頷き、再びひいろへと目を向けると彼女は小さく寝息を立てていた。



ーーーーーー


「今日もひいろちゃん夢の中ね」
「あの場所から連れ出した事、良くなかったんですかね?」

あれから10日程ひいろは蝶屋敷の奥まった部屋で眠り続けている。匡近は任務をこなし鍛錬をし、そして蝶屋敷に通う日々。
しかし、ひいろが起きる気配はなかなか無かった。匡近はベットの隣に置かれた椅子に座り寝顔を眺めていた。苦しげな顔をする事がないことだけが匡近の救いである。

「それはこれから良かったと思わせてあげたら良いんですよ」
「でも、このまま起きなかったら、、」
「粂野君が信じてあげなかったら
 ひいろちゃんは本当に迷子になっちゃいますよ?
 それで良いんですか?」
「良くないです!」
「じゃあ信じましょう。ね?」

カナエは一通り状態を確認すると「粂野君が待ってますからねー」とひいろの顔の近くで声をかけてふふふと笑い病室を出ていった。



ーーーーーー


暗い暗い水の中。
ひいろはその中を漂っていた。
苦しくはない。
ただそこにいるだけ。

『どうして起きようとしないの?』
どこからともなく聞こえた声。
聞き覚えのあるその声は、なんだか懐かしくて
返事をせずにはいられなかった。

「また、迷惑をかけてしまうから」
『どうして迷惑だって思うの?』
「だって私は鬼だから」
『鬼は迷惑なの?』
「そうに決まってます。」
『じゃあどうして匡近って人の手を取ったの?
 自分が人ではない事、分かっていたでしょう?』

「……それは、、、」

『もっと自分の気持ち大切にしてよ

 そしてさ、人の事も信じてあげて』

「信じてない訳じゃ、、」
『変わる世界は怖いかもしれないけど、
 きっと、ここから先は温かい筈だよ。

 だって、独りじゃないからさ。

 だから……


 姉さん、いっぱい笑って過ごして。』
 




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