残念ながらひいろから鬼舞辻無惨の情報を聞き出すということはできなかった。
あれだけ急激に様子が変化した事を鑑みて、カナエも匡近もなにか暗示のようなものがかかっていると判断して無理に聞き出すような事はしなかった。


新たにひいろが出会った二人の姉妹。
対応は見事に対照的であった訳だが、それでも、この出会いによってひいろにとっても一つ希望が見つかる事となった。
鬼に対抗する一つの手がかりにと、血を調べることに協力する事に決めたひいろだったが、それと同時に人に戻るという可能性を探る事を胡蝶姉妹は約束した。そう簡単な話ではないとは分かっていても、鬼ではない自分と言うものを想い描かずにはいられない。
それは言葉にできないほどに幸せな未来だった。


そして新たな出会いの物語にはあと一人語るべき人がいる。彼もまたひいろにとって身近な人物となるのだから。



夜道をゆく匡近とひいろ。
二人並んで向かうのはこれから過ごす新たな家。周りに民家の少ない、少々山へ入った場所。
それは蝶屋敷との行き来に不都合がないこと、鬼のひいろが御近所付き合いなんてものに巻き込まれないこと。そして、すこしでもを日の光を避けられることに重きをおかれている。

月明かりの中、開けた場所の前でひいろは足を止めた。その向かう視線に匡近は口を開く。
「ああ、ここは花畑なんだ
 昼間に来れればいろんな色の花が咲いていて綺麗なんだけど、、」
「夜は花も眠ってしまいますね」

匡近の耳には小さく"残念"と呟く声がきこえたきがした。



程なくしてたどり着く一件の家。
しかしなぜか家の中には灯りがともっていた。

「さぁ。参りましょうか」
「なんだか匡近らしくないです」
芝居じみた仕草で差し出された手に手を重ねながら思わず笑ってしまう。

そして家の中へ

「ただい、、」
「粂野さん。なんすかあの本の量。
 殺す気ですか?」
「あーごめん。ごめん。あれでも減らした方なんだよ」
「減らしてあれって、、そもそも任務に鍛錬って忙しくしてるのに、、どこに読む暇なんてあるってんですか。」
「知識は貯めても重くならないからね」
「いや、本のうちは物量ありますから!
 知識に変わるまでは重いっすから!!」

そこに居たのは、しのぶと初めて対峙した夜、香炉を持って現れた人。見慣れない、顔を覆うその装束の彼はこう呼ばれていたはず。

「……たしか、後藤さん?」

「あ、例の、、あの時はすんませんでした。」
後藤はひいろを見るなり匡近への文句はそこそこにひいろに向かって頭を下げる。
しのぶに言われて藤の香をたいたとは言え、ひいろという少女を自分の目で見てその行いが正しい事だったのか推しはかった。
そしてそれが良くない事と判断すればなんの躊躇いもなく謝る。後藤という者はそういう男なのだ。



彼がここに居る理由は数日前に遡る。

「なんで俺なんすか?」
「え?だって、詰所出てから当分は身の回りの手伝いを隠に頼めるだろ?、男の奴に頼むのはひいろが心配だし、女の子に頼むって言うのも複雑じゃん?そうなると、ひいろのこと説明不要で、手を出す心配もない後藤君に頼むでしょ。」
「俺も男っすよ!
 能無しみたいに言わんでください。
 あの子にそんな気無いのは確かですけど」

「俺は柱になるから、恩を売っておいて損はないぞ!」
「その自信はどこから来るんすか」
短い付き合いではないため、隊士と隠という間柄であっても、後藤も匡近に遠慮なくものを言う。
少々呆れながらも、匡近の人柄も、この人間が重ねている努力も知っているから後藤はこれ以上、茶化すような事を言うつもりもなかった。

「あの子はどう言う立ち位置で見たらいいんすか?」
「立ち位置?」
「ほらあるじゃないすか!
 鬼なのは確かだし監視対象とか、下弦の陸を共に倒したことを考えると、鬼殺の補助要員とか、、

 それとも、居候とか、妹とか、嫁とか、恋人とか、、」

「なっ!何をいってんだよ!!」
「そこんとこハッキリしといてもらわないと俺だって引き受けるにしても遣り難いんすよ」

「それは……」


ーーーーーー


後藤が頭を上げると、オロオロしているひいろと目が合う。
「ひいろさんもなんか困った事あったら言ってください。
 粂野さんに言いづらい事とかも。
 おれ、口は硬いんで」

とりあえず挨拶は済んだと、後藤は匡近の家を後にしょうとする。
「待ってください」
「何すか?」

「香炉、、、藤の香炉を置いておいてください」

「……は?
 あんな事あったのになんでまた」
「私が、必要だと思うからです
 後藤さんも、身の危険を感じたら容赦なく使ってください」

「粂野さん。この子、、、

 なんか変っすね」
「「変?!」」

でも嫌いじゃないっすわと口にした後藤は隠の隊服のせいで目元しか見えないのに、すごく楽しげな顔をしていた。


ーーーーーー

「これも後藤さんが?」
そこには握り飯とお味噌汁といったささやかなお夜食が置かれていた。
「ごめんね、ひいろは食べないって分かってたから一人分しか後藤くんに頼まなかったんだけど、、」
「あ、いや、、私は先に頂いちゃいましたから、、」
蝶屋敷で血を飲んだ時のことを思い出して、なんだか恥ずかしくなり、ひいろはどうぞ食べてくださいと匡近に背を向けた。

そんな彼女の肩を匡近はトントンと叩く。
しかし、ひいろはまだ恥ずかしさが抜けなくて匡近の方を見ずに「何ですか」と返事だけを返す。

「ねーねーひいろ」

諦めもせず再び肩を叩く匡近に、観念して振り返ると。

ぷす。


「・・・・・なっ、、

 何するんですか??」

振り返った頬に匡近の人差し指が突き刺さる。
一体どうしたらいいか分からず固まっていた。

そんな半開きの口目掛けて匡近は何かを放り込む。ひいろは驚いて2、3歩後退り、口元に手を当てがっていると、だんだんと広がる甘い味。

「おいしい?」
「……甘い、です、、、これは?」
「実弥から没収した金平糖。
 あいつああ見えて甘い物好きでさ、
 これは流石に糖分摂りすぎだって時に回収したやつ」

ひいろにあげると匡近はまだ金平糖が入っている袋をお夜食の隣に置き手を合わせる。
「いただきます。、、ひいろも座って。」
にこっと笑うと、匡近はお味噌汁に手を伸ばした。


匡近がお夜食を食べる隣で、ひいろは金平糖を一つ、二つ口へ運ぶ。
人の食べ物を受け付けないひいろが匡近と食卓に共に着く必要も無かったわけだが、それでも共に過ごすこの時間を、そんななんでもない事が温かく感じられるのだった。
 




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