「私、さねに会わないといけません」

ひいろはここ数日この言葉を口にしていた。
しかし、少年化中の実弥の傷はまだ完治に至っておらず、稀血で再びひいろが鬼化してしまうことを防ぐ為と会う事ですら止められていた。おのずと、血鬼術を解き実弥を元の大きさに戻すこともまだ出来ずにいるのだ。
しかし、実弥の状態がどうとかは関係なく、ただ単に小さな実弥が面白くて匡近は「そのままでいい」なんて言って笑っていたりしたのだが。
「言わなきゃいけない事があるんです。
 この状況で、好きには動けませんから、、
 それでもダメですか?」
この状況とは、未だに藤の香が焚かれているという事。言えば物分かりの良いひいろだから、もう香炉は置かなくて良いと言う話もあったようだが、一度暴れてしまった為、ひいろ自身が願い出たのだった。

「そんな、急がなくても実弥は逃げないぞ。
 むしろ元に戻せって追いかけてくる。」
「それは絵面的には微笑ましいかもです」
「だろ?」

「でも、大切な事なので。」
どこか必死さを見せるひいろに負けてカナエのところへ足を運ぶ匡近なのだった。

ーーーーーー

点滴をぶら下げてカナエに付き添われるようにして実弥はひいろのいる部屋にやってきた。
「用があるのはそっちの癖に、呼び出すたぁ良い度胸だなぁ」
「実弥ぃ。子どもが一生懸命悪ぶってるだけに見えて逆に微笑ましいから、そういうの今はやめたほうが良いぞ」

カナエとひいろの顔を見て、2人が妙に優しげな視線を向けている事に気づくと、実弥は顔を赤くしてそっぽ向くものだから、更にそれを見た匡近は和んで仕方ない。

カナエは実弥の点滴を固定すると、仕事が立て込んでいると部屋を後にした。

「あ、あのちっちゃくしちゃってごめんなさい」
「本当、良い迷惑だ。
 でも、俺が血を流しすぎたせいなんだろ……」


「……………ん?」
「……は?……いや、だから、、
 俺の怪我が、、」

「大変言いにくいのですが、、
 ………そのままの大きさだと私が運べなかったから、、、
 小さく、、させていただきマシタ……」

「…………は?」

いや、だって胡蝶妹が言ってただろ?血液の量がどうとか小難しい数字を並べて、、
命にかかわる状態だった的な事を、、
コイツ今、なんて言った?

《運べなかったから、、、》

「はぁぁぁあああ?!!!」

「ちょっと待って!実弥!!
 しのぶちゃんはちゃんと言ってたぞ!!
 ひいろが知ってたかどうかは別にしてって!
 つまり、ひどい状態だった事に変わりはないだろ!!」
「匡近止めんな!!斬らせろ!
 お前が斬らねぇなら、俺が斬る!!」
「どっちにしても今の姿じゃまともに刀振れないじゃ無いか!!」
「じゃあ戻せ!!今すぐ戻せ!!
 血液量なんて関係ねぇ!!」

「だから!!どっちもダメだってば!!」




「あ"ーーなんでよりによってコイツに運命握られなきゃいけねぇんだよ!」
膝に頬杖をつき、明らかに不機嫌な雰囲気を醸し出している。しかし、それについては何も言えそうにないひいろはただ苦笑していた。
「匡近っ!胡蝶の姉を呼べ!
 話は終わった。
 元に戻せねェなら俺はもうここにいる必要もねェかんな」
「あっ、まだ!まだなんです!
 話さなきゃいけないのは別にあって…」
「だったら早く話せや!
 俺はお前と楽しくおしゃべりする為にいんじゃねェよ」
「実弥。流石に口が悪いぞ。
 そんなんだからひいろが話しにくいんじゃないか」
実弥がベッドのほうへ視線を向けると、ひいろは三角座りをして引き寄せた掛け布団に顔を半分埋めてこちらを見ていた。
湧き上がるため息。
ーーやっぱりコイツは癪に触る。


「………さねの弟に、会ったんです……」
「弟…?」
身振り手振りでその容姿を説明し、最後に「人殺しなんて言ったから、、どこか行っちゃって、、」と彼の言葉をなぞった。

「お前、、俺のことアイツに言ったのか!!」
「ちがっ」
「どうせお人好しなお前のことだ!知ってるなら教えてくれって泣きつかれでもして、可愛そうとでも思ったんだろ!
 どこで何やってるかをペラペラ喋って、私が会わせてあげるとかそんなこと言っちまったから、弟と会ってくれとでも言うつもりか?!
 そんなもん、聞いてやるつもりはねェ」
「実弥っ!そんな言い方無いだろ」
「俺は!俺は会うつもりなんてもんは微塵もねぇって言ってんだ!勝手に話進めていい奴ぶったこと後悔しやがれ!!」
「………、、、もの、。」
「あ"あ"??!」

「……か。、、」
ーーそういうところが。私はさねが嫌いだ。


「言いたいことあるならハッキリ言いやがれ!」

「……じゃあ少し黙って聞いてなさいね。バカさね。」
「??!!……ひいろサン?!!」

「そもそも、言う訳がないじゃ無いですか、、
 これでも私、姉だったんですよ?
 大切な弟が居たんです。
 あの子は私の弟じゃ無い!それでも!!
 
 鬼殺隊に入るって事がどれだけ危険で、命がけなことか、知ってる私が、知らなくて良い鬼や鬼狩りの存在を話すなんて事はしない!
 既に家族を殺されていれば、鬼殺隊に入ってしまう事だって想像がつきます!弟が命を懸けて戦うなんて、私は絶対に耐えられない!
 血を流すことも、怪我をしてしまう事ですら嫌なんだ!!!


 ……だから、、

 そう思ってしまったから、、

 せっかく弟に会えるのに、、
 まだ、さねは弟と会う事ができるのに、
 言葉を交わす事もできるのに、

 私はさねの事何も言えなかった。
 教えるなんて事できなかった。
 
 私がさねから弟と会う機会を奪ってしまった。
 私が勝手に、、ごめんなさい、、

 ごめんなさい……」

「……は?、、なんだよ、、それ、、」

「弟君、必ずさねを探し出すって言ってました。
 伝えたい事があるからって、、

 だから

 死なないで下さい」

いつの間にひいろの頬は涙の線が幾つもついていた。

ーーなんだそれ。
  喋らなかった?、、コイツが??

実弥は驚きのあまり言葉が出なかった。呆然とひいろに目を向け続ける。その目から流れる涙は自分と弟のことを思っての涙。
勘違いして先走って傷つけるような事を言ったのに、"死なないで"と。

本当はうっすら蝶屋敷に来るまでの事を覚えていた。ひいろの苦しみながらも必死なその姿を。どこか認めたくなくてずっと夢だ、何かの間違いだと言い聞かせていた。

でも、確かに背中は暖かかった

「……悪かった、」
言葉にできたのは一言だけ。
それでもそれは実弥の精一杯の一言だった。
 




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