匡近はカナエに代わって実弥を彼の病室まで送っていた。実弥は1人で戻れると言ったのだが、固定してあった点滴に手が届かなかったのだ。屈辱感から来るイライラを隠すこともなく実弥は点滴を持つ匡近の前をずんずん歩いていく。なんだか犬の散歩みたいだなんて思った事を匡近はそっと胸の中にしまった。

病室に着くなり実弥は足を投げ出してベッドに横になり、匡近に背を向けた。
ーーほんと、やる事も子どもみたいだ。
「俺としては、ひいろとも仲良くして欲しいんだけどね」
「アイツは案外いい奴だって、、分かってる。」

それでも、割り切れないものもある。
実弥が言わずとも匡近は分かっていた。

「うん。……分かってくれてるなら良いけどね」
匡近は少し悲しそうに笑った。
実弥の稀血の事を知っている。そして、母親の事も。だから鬼のひいろと仲良くというのは酷な話である事も。
でも、そう願わずにはいられない。
匡近にとって実弥は大切な弟弟子なのだから。


それから5日後、実弥はひいろに血鬼術を解かれた。
「痛ってぇ!!
 この野郎、、二度と俺に血鬼術なんてかけんじゃねェぞ!!」
全身筋肉痛状態に加え、まだ血液量が万全では無い為、貧血も起こし、恨み言を言いながらも、ふらふらだった。
「可愛かったのになぁ。実弥ちゃん。」
「五月蝿ぇ。馬鹿近」

「だけどさ、どうして実弥を小さくするなんて事出来たの?
 前聞いた時は"血鬼術の本質を歪める"って言ってたけど、、」
「人に使ったのは初めてでなんと言ったら良いのかよく分からないんですけど、たぶん同じ様にさねの姿形を歪めたって事なんだと思います」

本質を歪める。
それは使い方を違えれば、人の心まで歪めてしまえるという事にはならないだろうか、、。
使い方次第で最悪の敵となりえる。
今はまだ良い。
ひいろの居場所は鬼殺隊(こちら)側にある。しかし、もし、鬼舞辻(あちら)側に回ってしまったら、、、

  それは誰かが抱いた未来の不安
 この子を鬼舞辻に渡してはいけないと。



「でももし、また血を流しすぎるような事あれば、迷いなく小さくしちゃうもんね。ね?ひいろ」
匡近はひいろに笑いかける。

だって実弥には弟と仲直りしてもらわなきゃいけないのだから。

「はいっ!覚悟しておいてください」
口に出さないながらひいろはその意を汲み取ると、実弥に向かって微笑んだ。
「けっ!」


ーーーーーー

まだ退院できないものの実弥も元に戻り、晴れてひいろは蝶屋敷を後にする事が許された。
夕焼けに染まるの道を匡近と共に家に向かって歩く。
「今ならまだ見えると思うんだよね」
「突然、なんの話ですか?」

「覚えてないの?この先に何があったか?」

「……あ。」

小さく声を上げてひいろは走り出す。
離れていく後ろ姿を見て匡近はほっとしていた。
ひいろ自身が選んだこととはいえ、ずっと藤の香が焚かれた部屋で顔色が良くなかった。いい環境ではなかったのだから、もし体に異常をきたしてしまったら、、外に出ても元のように元気にはならなかったらどうしようと心配していた。

しかし、それも杞憂に終わってホッと胸を撫で下ろす。

「匡近!まだ起きてました!
 ……とても綺麗です」
追いついた匡近の目に映るのは、目を細めて笑うひいろの横顔。本当はこちらを向いて微笑んでほしい気もするけれど、今はいい。
やっと見に来られた花畑を楽しんでくれたら。

「あの花はなんという花なんでしょう?」

「ん?あれ?…あれはね百日草。
 "不在の友を思う"とか、"遠い友を思う"って花言葉があったかな」
「なんだか、匡近とさね みたいですね
 離れてても気にしあってるみたいな」

「実弥には鬱陶しがられてるから、
 俺の一方通行な気もするけど?」
「そんな事ないですよ。
 じゃなきゃ頼って来たりなんてしないです」

「なんかそう言われると嬉しくなっちゃうね」

色とりどりの花が咲き乱れる花畑を花々が眠りにつくまで眺め続けた。

翌日、匡近持ち帰った、百日草が植えられた鉢を見て、ひいろは首を傾げる。
「さねと仲良くして欲しいって意味ですか?」
「まぁ、それもあるけどね。」
匡近は笑う。
今はまだ他の意味までは知らなくていい。

"いつまでも変わらぬ心" そして "幸福"の願いを込めて。




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