本の中では「やってみなければ分からない」が正解だった。空間が投影か繋がっているかなど見たところでわかる物ではないから。
でも先程、牛若を棚まで蹴り飛ばした時、棚からは本が落下してきた。つまり、実体がある。投影では無いという事だ。

鬼の子は繋がりが一番甘い所探して辺りを見渡す。「大丈夫。必ず出来る」そう自分に言い聞かせて。

「実弥っ!
「今度はアイツを護りつつ戦えってかァ!!」
「話が判る弟弟子で俺は嬉しいよ!」
「逝ってろ!!」
何だかんだと言うものの実弥は鬼の子を気遣いながら弁慶の薙刀を打ち払う。戦い慣れない武器ではあるが、対応出来ないわけではない。
一方匡近も、牛若の動きは掴みにくいものの、胡蝶しのぶの動きを思えばそれも今のところ大した問題ではなかった。



ーー……あった!!ここなら時間はかからないと思う!

鬼の子は取り出した懐紙を壁に押し当て目を瞑る。あっという間に意識は空間にかかっている血鬼術の構造へ入り込む。まるで紅い糸が張り巡らされた様な空間。目に止まった一本の糸を弾くと、糸に光が通り過ぎていった。

ーーこれじゃない。

その糸はどの糸とも絡まる事無い単糸であり、空間に対する大した意味は持っていない。
流石、弦付の鬼だけあってその血気術も複雑だった。しかし、これをやり切らなければ匡近の助けにはなれない。左腕は匡近の血で復活した。自分の体に彼の血が入っている。そう思うとどこかくすぐったい気もするが、何でも出来る様な気すらしてくる。
思わず口の端が緩むのを「集中」と戒め糸を手繰(たぐ)る。

誰かがその姿を見ていたら、まるで西洋の弦楽器を弾いている様だと言ったかもしれない。

弾いた糸の光があちこちに走っていく。
広がりを見せる分だけ色々な影響を与えている糸だということになる。

ーーこれだ。見つけた!!

右腕に爪を走らせると血が流れ、指を伝って見つけた糸に染み込んでいく。それは段々と赤黒く変色していった。

ーーできた。早く戻らないと。


ーーーーーー


鬼の子が目を開け、振り返った時最初に映ったのは白鼠色と血の赤。

「さ、、さね?」
「術を解く算段は付いたのかよ、、」
「……で、出来た」
「遅せェんだよ、、」

弁慶が使うのは薙刀だけでは無い。七つ道具と言われる物を持っている。鋸、槌、鎌、まさかり、熊手、鉄の棒、そして薙刀。武器として使っていた記述までは記憶にないが、今まさにその道具が実弥へと迫っていた。
鬼の子が見るに、薙刀は踏みつけ防いだ所に鎌を振われ刀で受けたものの弧を描く鎌の刃は実弥の腕を傷付けたというところ。肘を伝って血が垂れる。

「どうした鬼女(おにおんな)。
 正体見せて噛み付くなら今だぞォ?」

ーー私を庇った?
  ………あ、れ、、?

鬼の子は突然眩暈がした。


   コッチノ水ハ甘イゾ……


体の奥でざわざわと何かが沸き始める。
それはとても嫌な感覚。
まるで血が沸騰する、、ような、、


ーー何故さねは私を目の敵にするんだ。
  私がさねに何をしたって言うんだ。

  ああ、そうか、、

  これは罰、、。

  
《許されるその時まで》

自らの右手の甲に齧り付く。
ーー負けてたまるか。
  自分を捨ててたまるか。
  奪われてたまるもんか!!

  私は私だ!!


鬼の子は飛び上がる。
実弥を飛び越えて弁慶目掛けて。
伊達に商人たちを守り続けてきたわけではない。それ位の戦闘力はある。いつだって、人を守ると言う約束を支えに生きてきた。これからだってそうやって生きていくんだ。

爪を立て弁慶の顔面に向かって腕を振り上げる。弁慶は薙刀も鎌も手放して後ろへと飛んだ。

「これで助けたつもりかァァ」
「……さねの血は嫌い!!大っ嫌いっ!!
 血を流しながら私に近寄らないで!!!」
「あ"あ"!!このクソ鬼が!!
 こちとら、テメェの近くになんざ行きたくねェ!!」
「だったらこっち来ないでよ!!」
「テメェの方に行ってるんじゃねェ!!敵の方に向かってんだァァ!!
 ちょろちょろすんなら、テメェも一緒に頸落としてやらァ!!」

流石に二人の会話の雲行きが怪しくて、匡近は慌てて「仲間割れしないでよ」と口を挟む。


「こんな奴仲間じゃない!!」
「こんな鬼仲間じゃねェ!!」

同時に吐き出された言葉、そして同時に振りかぶられた拳は弁慶の体へと食い込んで、その大きな体を吹き飛ばした。


「、、、息ぴったりじゃん」


弁慶がぶち当たった"本棚"は崩れ落ち霧散する。とその向こうに古ぼけた本来の社の姿が見えた。段々と本棚の崩れ落ちは広がっていく。
弁慶が動く気配は無かった。

「人に向けて振るうのは気がひけるけど、、
 参ノ型 晴嵐風樹!」
明らかに牛若の動きも鈍くなっている。
晴嵐風樹を避けきれず弁慶同様、壁まで吹き飛ばされ動かなくなった。

「多分、ここの空間自体が崩れ落ちます」

鬼の子は目が合った匡近の顔を見て頷く。
彼女の血鬼術が成功していると言う事である。

「行こう。実弥、ここの鬼は下弦の陸だ」
「関係ェねェ。叩っ斬るまでだァ」
 




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