16000超え御礼
「ヤブ医者め…」
ーー薬など効いていないではないか。
柚華を暫く見ていない。噂では病気になって伏せっただとか、もう愛想を尽かしただとか、根拠もないモノばかり。
話したい。何故と直接聞きたい。
姿を見たい。こちらを向いて欲しい。
目を合わせて微笑んで欲しい。
手を伸ばして触れたい。触れて欲しい。
柚華が欲しい…。
思っても想っても、現れない柚華。
思い通りにならない身体に、治せない医者。
よくなりさえすれば、自分から訪ねていくこともできるというのに。
ーー何故私は許されないのだ…
苛々、疑心、不安、妬ましさ…色々な負の感情に包まれた頃、それに気付いた時には、目の前の血溜まりにヤブ医者が倒れていた…
それから数日後、体が改善していることに気づき、そして、再び柚華が訪ねて来た。
医者を殺した事を知らない柚華は自分のことの様に体調が改善していることを喜んだ。
「…?その頬、、」
うっすら浮かぶ陰に違和感があった。
白粉で明らかに誤魔化している。
「なっ、、何でもありませんの」
それより!と立ち上がると、柚華は満面の笑みを俊國に向けた。
「元気になられたのなら、庭に参りましょう?」
何か誤魔化されたと分かったのだが、それより柚華が笑っていられることの方が大切で、立ち上がった。
光りの中へと進んで行く柚華の後を追って几帳の陰から一歩出て
痛み。
几帳の陰に戻る他、選択肢がなかった。
「、、、何故だ…。」
ーー柚華は笑っているのに、私を呼んでいるのに、
何故、隣に並ぶことが許されない?
その日は目眩がしたとかそんな事を言って誤魔化し、柚華が庭で花を見たり、鯉に餌を放る姿を眺めた。
しかし、陽光は私を拒絶する事を辞めず、むしろどんどん増していった。
それは例えるなら医者を殺した事を許さぬと「命は命で償え」とでも言っているようであった。
そして、柚華にも変化が起きていた、日に日に線が細くなっていたようなのだ。
自分の事に精一杯だった私が、その異変に気づいた時には、あちこち骨ばってしまっていた。
そして、異変気づいた原因はもう一つ。
柚華から、甘い匂いがして仕方がない。
着物の袂から、襟元から、その存在から。
そういえば想いを寄せては居たものの、柚華に触れたのは"いつが最後"だっだろうか?
手が触れる。そんな事は数に入れないとして、
頬に触れたのは?抱き締めたのは?口付けたのは?
忌々しい陽光は山の端へと消え、空は赤く染まり、じきに夜がやってくる。
傍らに座る、柚華の流れる髪を掬い上げ口付けると、こちらにキョトンと目を向け、その後目を逸らして頬を染めた。
「いかがなされたんですか、、」
「柚華から甘い匂いがする」
「菓子など隠しておりませんよ」
「それでも、、香るのだ。」
少し強引に寄せて、腕の中に収めてしまう。
好かれている事は自負しているが、いくら他をぞんざいに扱おうが、柚華の事だけは大切にしたい。彼女だけが私が病に打ち勝つ事を願い続けてくれたのだから。
ただ腕の中の甘く香る温もりを感じていた。
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