16000超え御礼


ーー泣いている?

柚華の肩が小刻みに揺れている。
その理由を探すも、俊國に何も思い浮かぶ事はない。

ーー何を隠している?柚華も私を謀るのか?

そんな事を思ってしまった自分が一番憎い。
腕に力を込めてしまい、柚華の「痛い」で我に帰った。

「俊國様が元気になったら、幸せになれると
 思っていました。」
「…これからの事はこれから決まって行く事だろう?」
「ダメなのです。私が、、私がーーーーーー」


腕の中で泣き続ける柚華。彼女がどうして甘い匂いがして仕方なかったのかを俊國は知る。


着物の下、無数に付いた傷口。そこから滲む赤が俊國を魅了する。

ーー飲みたい。その血が。
  食べたい。その肉が。

  それは歪んだ愛なのだろうか?



しかし、その後に沸き立つのは明らかなる憎悪。柚華を傷物にした者共が憎い。
俊國は欲を抑えてただ柚華を抱き締め続けた。


そこから血生臭い夜が始まった。
柚華を傷物にしたモノを、
今まで軽んじてきたモノを、
病を克服したと手のひらを返したモノを、、
あとは理由など分からない。

気付けば鬼の噂が、聞こえるようになっていた。
それでも、そんな事は構やしない。その頃には同類も幾許か作り出し、私に繋がる証拠などどこにも無いのだ。

「虚しい…」

それでも、昼を生きられない体は柚華と共に明るい未来を見る事は出来なかった。
医者が書き留めた薬の記述の青い彼岸花というものも見つからない。

傍に柚華が居ない。
それはとても寒い…。


夜の帳が下りた後、俊國は柚華の元へ向かっていた。鬼の噂が広まる様になってから夜の都はおかしな雰囲気で二分されている。
鬼の存在を信じず、惨殺魔を打ち取ろうという者と、加持祈祷で鬼を遠ざけようと狂った様に祝詞を奏上し続ける者。

その姿は俊國には滑稽に映る。

「疑わしくわ殺してしまえ」
「それで都の安寧が取り戻せるなら安いものだ」

俊國を追い越して武装した役人達が列を成し過ぎていく。最初こそ何も不思議と思いもしなかったが、俊國が進めば進むほど役人が増えていた。

「おやめ下さい!」
「娘を!娘を返して!」
「黙れ!
 この娘と鬼が通じているとの噂が広まっておる。
 これ以上、都を脅かされる訳にはいかぬのだ!」
「潔白というなら証拠を示せ!」

「証拠などと…」

「此方にはある!この娘を辱めた者は皆殺されている
 それが何よりの証拠だろう!」
「鬼を呼ばれては大事となる!早く殺してしまえ」

夜毎に斬殺死体がみつかり、これ以上役人達もなりふりなど構っていられなかった。


聞こえてきた役人達の物言いに、俊國は"まさか"と思った。役人と野次馬で人だかりができて、それをかき分けて…前が開けた時

ドサッと鈍い音がした。

悲鳴と、歓声と、荒い呼吸音と…
人が捌けていく雑踏と、、

俊國の瞳に映る横たわった体。

ーー柚華はどんな着物を着ていただろう…
  どんな髪色をして、どの位の長さだっただろう…
  どんな背格好で、、


「ちょっと!アンタ!止まれ!」
俊國の耳に静止の言葉は届かない。
止めようと手を伸ばした役人は血飛沫をあげて倒れていく。

横たわる体の前で膝が崩れ落ちた。
それはどう見ても柚華以外の何者でもなかったから。
「こんなに、、小さかったか…」

ーー血をやれば、また一緒にいられる
抱き寄せて自ら腕を噛み切って血液を落とす。

ポタポタと柚華の血と混ざって、紅が増して、、


それでも、再びその体に温もりが戻ることは無かった…。




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