もう一度
「本当に事業の手伝いをしているとは」
目の前の書類から顔を上げて柚充はデスクからソファに座る杏寿郎に目を向けた。
「ハハハ。笑っちゃいますよね。
刀をペンに持ち替えて、
未だに無惨と戦ってるなんて。」
この書類のチェックだけさせて下さい。と言う柚充に杏寿郎は構わないと目の前に出されたお茶を一口流し込む。
「厳密には戦ってるわけではあるまい。
どちらかと言うと共闘?
の方が正しいのではないか?」
「そうとも限らずですね。
信じられます?
善良な社員の企画が社長の元を経過すると
尽(ことごと)く歪んでこちらに回ってくるんですよ?
良かれと思って修正かけてるんでしょうけど。
でも、会社の為、ここで働く社員の為にと
それなりに考えてるみたいなので、今の所、
害はない存在かと思っています。
目の付け所はいいと思うんですけど、方向性が、、、
ってコレじゃ愚痴みたいですね」
よし!と書類にチェックを入れ終わると、それを見計らったように現れた女性が書類を受け取り部屋を出ていった。
お待たせしましたと柚充はデスクから杏寿郎の座るソファの向かい側へと移動し、部屋の主と思えないほどちょこんと席に着いた。
話したい。話さなければと思っていたのに、いざ目の前にすると、柚充はどこから何を話せばいいのかわからなくなってしまいそうになる。
「良かったな。
不死川とまた会う事ができて」
「……はい。
煉獄様は昔のこと覚えているんですよね」
「ああ。覚えている。
不死川が怒鳴りながら柚充を探し回っていたり、
柚充が逃げ回りつつも懸命に鍛錬を積み重ねていたのも」
杏寿郎の手が自らの腹の位置に添えられる
「少しでも命を繋ごうと必死になってくれた事も」
今でもたまにその赤を夢に見る。
どうしても忘れられない。
「ごめんなさい。私はあの時何も出来ませんでした。
それに、本当はありがとうを言いたかったのに
それすらも口には出来なくて、、」
「ならば礼は今世でいっぱい聞かせてくれ。
下を向くな。俺も、多分他の奴らも笑っている柚充が好きなんだ。」
"下を向くな"
そう言葉を掛けたのは不死川実弥。
柚充にかけるべき言葉は"心を燃やせ"ではなかった。
なぜならずっと柚充の心の特別には不死川が座っていたのだから。
「煉獄様。
私は貴方の血が染み込んだ羽織を着続けていました。
それは煉獄様を世に留めておくような足枷になってはいませんでしたか?」
遊郭で妓夫太郎の毒を喰らい、内で鬼柚充と初めて対峙した。そして、彼女の言葉に心を乱された。
それでも、自らを手放さずに居られたのは杏寿郎の存在があったから。あの時の大丈夫と言う言葉は何にも変え難い力となった。
「そうか!
柚充の姉とはそこで会っていたのか!」
「、、、は?」
「あ、いや、先程姉君と少し話をしたんだが、
初めましてと挨拶したものの何処かしっくりこなくてな。
不思議に思っていたんだ」
「ああ、、姉の記憶は残ってませんから」
「それでも、柚充を大切に思う気持ちはそのままなのだろう?」
「ええまぁ、、有難い事に。」
「じゃあそれで十分だ」
「かえって俺が死んだ事で、
後進達には大きく使命感を背負わせてしまった。
、、すまない。
俺も柱になるまでにも、
なってからも何人も隊士を見送ってきた。
やはり命を背負うのは何度経験しても、、な…。」
「蹲って悲しんでも時は止まってくれない」
杏寿郎はいつの間にか下を向いていたとハッとした。顔を上げると、柚充が「ですよね?」と微笑んでいた。
「煉獄様、今度は精一杯楽しみましょう!
私たちはそのチャンスを貰ったんです。」
そして今度こそ沢山のありがとうを貴方に。
「一つだけお願いがあります。
頭、撫でて貰えますか、、?」
「それは、、
不死川との関係を拗らせる事になりはしないだろうか?
不死川の許可があっての事とはいえ、
今こうして二人で会っている事も
結婚を控えた女性がする行動ではない
と思わずにはいられないのだが。
俺は君たちの結婚に水を刺すような事はしたくはない」
「ふふっ。そんなの気にする事ないのに。
やっぱり煉獄様ですね。
そうだ!!
一本付き合ってくださいっ!」
意気揚々と立ち上がると、柚充は杏寿郎の腕をひく。
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