もう一度


実弥の着信から数日後。
杏寿郎が乗るエレベーターの数字が増えていく。

彼は今、舞辻(まいつじ)の会社に来ていた。
柚充曰(い)わく、鬼舞辻が地獄で"鬼"を落とし舞辻と名乗る事になったのだと言う。
まぁ、それはいいとして、この会社の命運を現経営者の娘が実質握っているなど誰が予想できる事だろうか。

ーー鬼舞辻の娘か、、

厳密に言えばあの時代の柚充はそういう存在ではなかった訳だが、この時代では完全に血を分けた親子なんだという。

着く予定の階ではない所でエレベーターが止まり、扉が開くと柚充と瓜二つの少女が立っていた。
瓜二つと言えたのは髪の色が柚充の色とは異なっていたから。

しかし様子がおかしい。

「、、、、チッ、柚充の客か」

呟くようなその声。
舌打ちが聞こえた気がする。
目つきも鋭い気がする。
歓迎されていない気しかしない。

小さくため息をついてその少女はエレベーターに乗り込み、杏寿郎に背を向ける。
しかし、そんな彼女に杏寿郎は興味が湧く。
隣に並ぶとその顔を覗き込むように口を開いた。


「初めましてだな!
 煉獄杏寿郎と言う者だ。
 君は柚充の姉妹だろう?
 とてもよく似ている!
 髪色が同じだったならば、
 きっと見分けが付かなかった事だろう!」

「・・・・・・・い。」

「ん?何か言ったか?
 耳は良い方だと思っていたが
 聞き取れない事もあるとは!」

そしてまたエレベーターが止まった。
どうやら柚充似少女の目的地はこの階らしい。

「……近い、うるさい。」

「?!!」
ドアが開き、少女は降りると振り返り杏寿郎を明らかに睨みつけた。
「私は認めないっ!!
 なんで大切にしてきた妹を突然現れた奴に
 掻っ攫われなきゃいけないのよ!
 何が運命よ!何が前世よ!

 何が、、結婚よ。」
 
ドアが閉まっていく。

ドアの隙間に俯く柚充の姉。


杏寿郎は思わず閉まるドアを掴んでいた。


「人の気持ちをそんな無下な言葉で片付けてはいけない」
安全機能で再びドアが開く間にエレベーターを降り、杏寿郎は俯く姉の前に立つ。
「夢のある話だと思わないか?
 たった一人に出会うために。

 …巡り会うために生まれて来た。というのは」
「……じゃあ私は
 柚充にとって必要のない人だったっていうの?
 一人のために生まれて来たなら、
 柚充に姉は必要なかったって事じゃない!」

「そんな事はない。
 必要のない人などどこにも居ない」

姉柚充の口がそんなの矛盾していると言う。
しかし、杏寿郎はそうは思わない。
「運命の人だけが大切な人では無いぞ。
 いくら運命と言えど、それを掴むためには
 自分自身を磨き続けなければいけない。
 そしてそれは周りの支えがあってこそ。
 柚充が成長する為、
 運命を掴む為には誰一人として、
 姉だってかけてはいけなかったと私は思う。

 それに、
 君にもちゃんと運命は繋がっている。

 柚充と違って
 繋がる先はまだ見えないかもしれんがな!!」

杏寿郎は柚充の姉ではなく、空を見つめていた。それは杏寿郎の癖のようなもの。一点だけを見つめていては大切な物がこぼれ落ちそうになっているのを見落としてしまうから。広くを見つめて全てを救う。ずっとそうしてきた。
その姿は柚充の姉には不思議とどこか懐かしくみえた。


「約束の時間を回ってしまった!
 俺は柚充の所に行かねばっ!

 ではまた。柚充の姉君」


もう目的の階まで大した数ない為、階段に向かって数歩進み振り返る。
「因みに柚充の相手は俺ではない!!」

ニコッと笑うと姉柚充の顔がみるみる赤く染まっていった。




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