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「良かったんですか?
 菫さんに話してしまって」
「大丈夫。彼女はもう試練は突破しているのだから」

あとは妓夫太郎と梅、二人と共にこの地獄から抜けて欲しい。ただそれだけを願う。


ーーーーーー

ーー気持ち悪い。
  変な夢を見た気がする。

目を擦って、寝不足で限界だったんだと思ったと同時に息を飲んだ。

目の前に妓夫太郎先輩が居たから。
「菫お前なぁ、、、サボって寝るにしたってなぁ
 女子なんだから保健室に行って休まなきゃダメだろうがよぉ」
妓夫太郎の額に汗が浮かんでいる。
どこか呼吸も荒くて、、

ーー探していてくれたんだろうか

妓夫太郎の左手は首の裏をガリガリと掻いている。だらりと下がった右手。
菫はその指をそっと掴む。
「さがしてくれて。
 ありがとうございます」

伸びた妓夫太郎の手に、頭を撫でられるのかななんてくすぐったい気持ちが湧いたが、その手は菫の頭にたどり着くなり、妓夫太郎の方へと力がはいった。

気付いた時には、菫は妓夫太郎の腕の中に居た。

・・・・・・・・

ーーっちょっと待って!ど、ど、ど、どういうこと?!

「あんな顔見たら、心配しねぇわけねぇだろうがよぉ」

ーーそうか、、廊下でぶつかったとき。
「そ、そんなにひどい顔してましたか、、」

「酷かねぇよ。……ただ、、」
「ただ?」



「抱きしめたくなっちまった……」

「なっ!!」
ーーなんてこというんですか?!!

恥ずかしい。恥ずかしい。
でも、、それがどこか心地いい。

「妓夫太郎。菫は見つかったか?」
「おう。狛治。見ての通りだよなぁ」

腕に菫を抱きしめたまま妓夫太郎は狛治の方を向く。
「見つけたと言うより、捕まえたって感じだな」
狛治はスマホを取り出すと、写真を一枚撮ってぽちぽち操作する。
「送信。」
「えっ?!!狛治先輩っ!何を誰にですか?!」

「ん?コレを恋雪に」
向けられた画面には妓夫太郎に抱きしめられている自分の姿。

一気に熱が上がった気がして思考が停止した。


ーーーーーー

「菫ちゃん本当に大丈夫?
 今日はもう早退した方がいいんじゃないですか?」
この後は全校集会だけなんですからと恋雪が言うが、菫は首を縦に降らなかった。
「全校集会だけだから大丈夫よ」
体育館に全校生徒が集まっている。
全校集会といっても必要なのは3年がほとんどで1年の菫は居ればいいだけである。



赤黒く染まったピースが動き出す。
最後の一片。

それがはまる音がする。

ひどく冷たい音を立てて

パチっと。


突然頭痛が菫を襲った。

目の前が赤いフィルターを通している様に見える。
同時に喉の奥がぎゅっと締まって苦しくなった。背中を丸めて胸元を掴む。

握った手に痛みを感じて広げてみると爪が恐ろしいほどに鋭く尖ってみえた。

ーーなに、これ…

震えが止まらない、、、




その頃、妓夫太郎と梅は体育館の二階に居た。2階と言っても、立ち見の観覧スペースがあるだけ。
そこであぐらをかいて壁に寄りかかり、集会を眺めていた。
バイクの申請を許可して欲しかったら、行事にもちゃんと出ろと、誰にとまでは言わないが職員室で脅されたのだった。
「姫ちゃんから写真届いた時は驚いちゃった。
 ついに菫と恋人同士に戻ったのかって。
 クッキーお兄ちゃんのところに届けてって言った甲斐があるってものよね」
「お前の差金だったのかよ。
 ………残念ながらそんなんじゃねぇんだよなぁ」

ーーあ、菫。つまんねぇ集会に真面目に出てんのか、、
  体調悪りぃ時は休めよなぁ
「ん?なあ梅。
 菫の様子おかしくねぇかぁ?」
「えー。菫どれ?」
「三列目の真ん中のあたり」

梅が菫を見つけるより早く、立ち上がると観覧スペースから身を乗り出そうとする。しかし、落下防止に付けられたネットが邪魔をして身を乗り出すことも飛び降りることも許してはくれない。
「ッチ!!」

舌打ち一つ階段へと走る。

しかし降り切った所で、モブ教師が妓夫太郎の前を塞いだ。
「謝花!お前は大人しくしてろって言っただろ」
「違げぇんだ!1年に体調崩してる奴が居んだってよ」
「そうやって集会の邪魔をしたいだけだろ」
「だから!人の話聞けや」
「最近おとなしくしてると思ったらこれだ!
 いいから戻れ」
「最初から耳を傾ける気もねぇんだったら
 俺の前に立ち塞がんじゃねぇよ!!」
拳を握りしめてその腕を教師に向けて振り上げる。

《ダメっ!!》
妓夫太郎の頭の中で菫の声が聞こえた気がした。

振り上げた拳を必死で下げ言葉を振り絞る。
「上から見えた。
 背中丸めて震えてる様に見えたんだぁ
 だから、、行かせろや」
拳は収めたが、邪魔をされる事が癪に触る。
不機嫌を隠す事なく教師を睨みつけた。
「良いな謝花!やること派手で!!」
「テメェに、ンなこと言われたかねぇよなぁ」
「いいから、早く行ってやれってんだよ」
まさか宇髄が助け舟を出すなど思っていなくて"大人"であることが少しだけ羨ましくなった。

妓夫太郎が言った通り、紫陽花組の列で自分の体を抱きしめる様に菫が震えていた。

そんな菫を抱き上げると他の生徒がざわつく。そんな周りに構う事なく妓夫太郎は体育館を出て行った。
「お兄ちゃんっ!!菫は?!」
「分かんねぇけど保健室連れてくからよぉ
 安心して待ってろよなぁ」
「分かったわ!絶対に待ってるから!
 放課後になっても待ってるから!!」


保健室に着いたものの、校医は居なかった。

ベッドに下ろしたが、菫が楽になる様子はない。
整わない呼吸に、額に脂汗を浮かべて、、
せめて濡らしたタオルでも乗せてやろうと菫に背を向けた。
しかし菫の手は妓夫太郎のシャツを掴んだ。

「菫っ!分かるか?」
「妓夫太郎先輩、、私、、人を食べてた。
 鋭くなった爪で引き裂いて、人を殺して、、
 自分で殺しきれなくて、妓夫太郎さんに殺させていた……」
人が死ぬのなんてなんとも思わなかった。
むしろ舞う血が綺麗だなんて思ってしまった。

「菫……思い出しちまったのかぁ」
「、、、知ってたんですよ、ね。」


「俺がお前を鬼にしたんだからなぁ。

 でも、俺は菫を鬼にした事を後悔したことなんてねぇ」

「……なんで、、」

「そりゃ決まってんだろうが。

 俺は菫が側にいて欲しいって


 そう思っちまったんだからよ」

妓夫太郎は菫を抱きしめる。

辛いよな。人を殺して、人を喰っていたなんて事実。人間として転生しても、いつか人を殺めてしまうかも知れない不安だってどこかにあるかも知れない。
それでもさ菫。一人じゃない。
同じ痛みを俺も、梅も、菫以上に背負っていくから。
どうしても押しつぶされそうになった時は、一緒に居て、一緒に泣けばいい。
血の赤さに引き込まれてしまいそうになれば、俺が菫を、菫が俺を。そして、梅を二人でとめるんだ。大丈夫。俺と梅は二人いれば最強なんだ。そこに菫も居るならもっと、もっと強く有れる。力の話じゃなくて、今の時代では心の方。
な。だから。菫も負けるんじゃねぇ。
その赫は怖くない。残酷な話かも知れないけど、俺たちが出会うためには必要な赫だった。
でも、その分の咎は受ける。
頭では分かっていても、まだまだ難しいことかも知れない。だからこそ。一緒にいよう。一緒なら乗り越えられる。

一緒に幸せになろう。

「菫。愛してる

 今も。昔も。そして、未来も。」

菫の目からは次々に雫がこぼれ落ちていた。
その視界は赤いフィルター越しではなくなっていた。

ーーちゃんと見える。愛しい人のその姿が。
 




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