折り鶴


変換なしでは夢主の名前は"春"となります。


ーーそんなっ!そんなっ!!
  嘘だ!嘘だ!嘘だっ!

善逸は蝶屋敷に駆け込み、廊下を走っていた。
草履を脱いだかどうかもよく分からない。ただ今履いていないのだから、きっと草履は入り口で脱いできたのだろう。
遠くで廊下を走らないでと聞こえた気もする。そんな事、今はどうだって良い。後でお説教はちゃんと聞くから、今は、今だけは俺の前に立ち塞がるのはやめてくれ。

「春っ!!」
病室の戸を開くと白い白いベッドの上で彼女は同じくらい白い顔をして横たわっていた。
廊下は走って来たのに、病室の入り口で足が動かなくなってしまった。いつもはうるさいくらいに聞こえる春の音があまりにも弱々しかったから。

「入口を塞がないでもらえますか」

後ろから聞こえたのは、蝶屋敷を取り仕切る胡蝶しのぶ。その手には銀色のトレーに入った治療用具。彼女自ら処置を施している、、それもまた善逸の血の気が失せていくには十分な理由であった。

「ご、ごめんなさい、、」

道を開けてしのぶの後に病室の中に踏み込んだ。

横たわる春の喉もとに充てられた布の肌に近いものは赤く染まっているのが分かる。

その赤は肌に対してひどく恐ろしい色に見えた。

「……しのぶさん、、春は、、」
「…………」
「………何か言ってくださいよ…
 、、大丈夫っていつもみたいに笑って、、」

「気休めでいいなら何とでも言えます。
 でも、そんな事は望んでなんていないでしょう?」

返す言葉もなかった。
手が震えて仕方がない。

俺と違ってじいちゃんの鍛錬を逃げ出さず、直向きにこなし、それでも雷の適性ではなくて自分に合う呼吸を探して努力して努力してやっと鬼殺隊士になったのに、、
こんなとこで死んでいいわけないのに、、

ーーお願いだから春を連れて行かないで、、

「っ!春ちゃん!ここが何処かわかりますか?!!」
「っ!!」
突然、春に向かってしのぶが問いかけたため、身を乗り出してその顔を見つめたが窪んで光も消えかかっているその目に言葉が続かなかった。

「      」
口元が動いたが、それは音にならず困ったように笑う。切り裂かれた喉は声帯を傷つけ声が出せる状態では無かったのだ。
ーーそんな顔して欲しいんじゃない。
善逸は春の手を握っていた。
「春!なんて顔してんだよ。
 声が出なくてもさ、知ってるだろ
 俺は耳がいいから、春の声は
 いつでも俺に届くから。
 いつまでも、一緒に居るから。

 だから、早く元気になれよな!」

善逸としのぶには、春の目に少しでも光が差したように見えた


ーーーーーー

「善逸さんあんまり器用じゃないですね」
「羽の大きさ違いますよ」
「うー…。なんで?!何が違うの?!
 え?だって同じに折ったよね?!
 春もみてたよね?!!」

今春の病室では善逸とナホ、キヨ、スミが鶴を折続けていた。しかし、何度彼女らを真似て作っても善逸の鶴は不恰好に折上がってしまう。善逸の手の上に乗る鶴がこてんと傾きベッドに横になって上から様子を見ていた春は柔らかく目を細めた。
小さく動く口元と一緒に善逸の耳だけには声が届く。

「分かったよ……春は物好きだな。
 あっちの鶴の方がきれいに出来てるのに」

春の目の前に善逸は折った折り鶴を置いた。
不恰好でも、春はその鶴をすごく嬉しそうに見つめ、ゆっくりと伸ばした手でちょんと触る。
折り鶴越しに合う視線。
消え入りそうな小さな灯火(ともしび)はそれでも綺麗に燃えていた。

ーー春。元気になれ。




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