H8000hit御礼


  俺があの時もっと強ければ、、


「お前なんだ!
 俺様の縄張りに勝手に入ってきてんじゃねぇ!」
「……ごめんなさい。
 でも、ここに居るようにって言われたの」
「はあ?誰にだよ?その辺にお前以外誰も居ねぇぞ」
「……でも、私は一人ではどこにも行けないから、、」

「さては、お前馬鹿だな!
 足が付いてんのにどこにも行けねぇわけねぇだろ!」
「足はあるけど、、目が見えなくてね」

その女は見えないという目を細めて困ったように笑った。
ーーだから、俺を怖がらずに喋ったのか。
いつだって伊之助が出会った人間は見るなり声を上げて逃げていく。猪の皮を被っているのだから仕方ない話ではあるのだが。
ーー逃げ出さなかったのはヨボヨボの
  おかきジジイくらいか

「お前捨てられたんじゃねーの?」
「やっぱりそうかなぁ」
「分かっててそこにずっと居んのか?」
「何処にも行けないもの。」
何故か伊之助はすごくイライラした

「お前はやっぱり馬鹿だ」

伊之助はその少女の手をとって歩き出した。
「っ!!ちょっと!!」
「死にてぇなら、今すぐを手を振り解けば良い
 生きたいなら、黙って着いてこい」

その手は小枝のように細くて、伊之助は驚いていた。
よくこんなんで生きていたなと。
「よし!今日からお前は俺の子分だ!!
 親分は子分の面倒を見るもんだからなっ!!」


守るものが居る。
それは少しだけくすぐったくて、すごく誇らしかった。


季節が半分ほど変わって、いつのまにか子分が居るのは当たり前のよう。


あの日までは。


あの日は森の動物たちがあまりにも騒ぐもんだから、子分を置いて様子を見に出かけたんだ。森にだって鹿や熊の子分たちが居る。そいつらだって俺は守ってやらなきゃなんねぇから。


でも、たどり着いたその場所には動物たちの死骸が転がっていた。なんの生き物だろうと見境なく、、

ーー何があったんだ、、
  マタギの奴らでもこんな殺しかたはしねぇ


  ああ。俺が弱いから、、子分達を、、


「アイツはっ!」


伊之助は来た道を走り出した。

一番下っ端の、一番弱い子分。
小枝よりはしっかりしてきたがまだまだ線の細いニコニコしてばっかりの弱いアイツ。

ーー平気だ。ここから離れた場所に居るんだ

こんなに必死に走った事はあっただろうか?
分からないけど、、

何故か、初めて会った日、困ったように目を細めて笑ったあの顔が浮かぶ。


住処の横穴が視界に入った時、それと同時に刀を持った二人の男が目に入った。

伊之助の中で怒りが湧き上がり体温がカッと上がっていった。
「テメェらかぁ!よくも子分どもを!!」
「うわぁ!!なんだコイツ」
横穴を背に刀を持った男たちを威嚇する。
「待て!なんの話だ!俺たちは鬼を」
「寝言は寝て言え。鬼なんざ居ねぇんだよ!!」

ーーでも、。あの傷は刀じゃねぇ、、

「い、のすけ、、」

震える声を耳にして、背筋に冷たいものが走った。

初めて森の動物以外の子分が出来たのに。
弱々しいアイツを守りたいと思ったのに。

「なんで、血なんか流してんだよ、、。」


その後はよく覚えていない。
入り口にいた奴らの刀を奪い取って、子分を掴む腕を切り落として、、
無我夢中で切り刻んだ。

それは見た事がない生き物だった。

ーーーーーー

赤く染まった衣に身を包んだ子分の体を抱き抱えていた。だんだんと体温が抜け落ちていく。

何でだろうな。
生き物ってすぐに死ぬんだ。
俺を置いて、、。


『生き物は死んだら土に還るだけなんだよ』

いつか子分は死んだ動物がいた時
土に埋めると言ってていた。

『わたしも死んだら土に還してね
 そうしたらまた、

 伊之助の所に帰ってくるから』


思い出して小さくつぶやく。

「今度はちゃんと自分の目で自分を守れ」


ーーそれができんなら


  また子分にしてやる。


冷たくなった体を抱きしめて、あの日誓った。


    強くなる。
    今度こそ子分は俺が守る


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8000hitありがとうございます。
毎度のことではありますが、こんなに沢山のご訪問頂けるとは思っていなかったので、本当に感謝の一言に尽きます。
何となくでも好きと思って頂ける物語が書けていたら良いのですが。
今回は名前変換のない仕様になりました。
リクエストはありませんでしたので過去のネタを再構成です。
わたしの作る話は夢主が死んでしまう。
なんだか申し訳ないです。

次の9000hitはどうなることやら。
またお会いできれば幸いに思います。
22.4.11




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