もう一度


変換なしでは「柚充(ゆあ)」となります。



私は実弥様に結婚を願い出た。
そこに後悔は微塵もない。
でも、きっと私が最初に憧れたのは彼だ。

煉獄杏寿郎様。

また会いたいと思っていた。
言葉を交わしたいと思っていた。
だって煉獄様は目の前で息を引き取ってしまったから。
あまりにも突然の別れで、伝えたい事は何も口にできなかった。
私は我儘に煉獄様の血で変色した羽織を着続けたいと申し出て、煉獄様の弟、千寿郎くんがその思いを汲んでくれた。
彼の血液(カケラ)の染み込んだ羽織は思って居た以上に不安な心を支えてくれていた。
実弥様を好きな気持ちは変わらないし、手を離すつもりも無い。
けれど、、


実弥様の元に帰ってこれた事が運命ならば、煉獄様にまた会えた事も運命だと思っていいでしょうか?

ね。煉獄様。もう一度貴方と、、


ーーーーーー

柚充は自室のベッドに寝転んで天井を見上げていた。
実弥と再会を果たし、柚充の左手には蜜璃制作の指輪が輝いている。
実弥の左手にもそろいの指輪が同じ光を放っている事だろう。
ーーなんだか夢みたい。

結婚をする事が決まっても、その日から2人で暮らせる訳もなく、これからお互いの両親に挨拶をしたり段取りというものが待っている。

でも、一つ心残りがある。
結婚が嫌なわけでは決してない。
心から望んでいるのは本当。
それでも、思い浮かぶあの姿。

「うじうじ考え続けるのは私じゃ無いよね、、」
ーー話せば実弥様も理解してくれる。
  ハズ、、、。
柚充は起き上がると会社の書類の広がるデスクの横を通り過ぎ、携帯を手にベランダへ足を運ぶ。

通話の相手はもちろん実弥様。



ーーーーーー


煉獄杏寿郎は昼間の事を思い出していた。

鬼滅学園の廊下を跳ねるように駆け抜けていった柚充。
自分の記憶にある彼女の姿よりは確実に大人に近く、知っているのに知らない柚充がそこに居た。
他の者より早く戦線を離脱したのだから成長した姿を知らないのは仕方のない話なのは分かっている。
それでも、やはり心の何処かで寂しいと感じていた。

杏寿郎の中にあるのはいつかの時間軸、懸命に鍛錬を積む姿。鬼殺隊士となって不死川と共に贈った羽織を翻し微笑む姿。そして、命は助からないと分かっていても諦めずに止血しようとしてくれたあの姿。

恋では無いのは確かで。
千寿郎を、、家族を思うようなそんな気持ち。

「、、、、ゆっくり話でもできたら良いのだが……」
こぼれ落ちた言葉に自分自身が驚いた。
まさに今日、不死川と柚充の時を超えた想いが実を結んだといたのに、いったい自分は何を考えているのだろうか。
不死川が柚充を探し続けていたのも知っている。
相談とは違うかもしれないが酔った勢いで弱音を吐いた彼を励ました事だってあった。
不死川と柚充は結ばれる星の下に居た事は色恋沙汰に疎い自分であってもそう思う他なかった。

それでも杏寿郎にとって柚充はある種特別な存在。

柄にも無くぐるぐると答えの出ない思考回路にはまって、頭からプスプスと焦げたような煙が上がっている気すらしてくる。


そんな中、テーブルに置かれていた携帯が着信を告げる。

表示されたその名前は不死川実弥。

その人だった。




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