3000hit御礼短編


狭が死んで、また暗闇に戻った。
女どもの猫撫で声。
山のような料理の数々。
吐き気のする座敷牢。
不気味な何かが這い回るような音。
粘りつくような視線。

もう自分も死んでしまった気さえしていた。


12歳になった頃座敷牢から引き出された。
その日、目にしたのはいつか狭が口にした蛇の化物。

ーーコイツに食われて狭の所に行けるんだ。
  
恐怖ではなく、あの生活が終わる事を安堵する気持ちが優っていた。しかし、小芭内の気持ちとは別に、蛇女は小芭内をもう少し生かすと言う。
『そうだ!!私と同じ口の形にしてしまいましょう!!
 だって私の贄なんだから。
 そうねぇ。流れた血は盃に溜めて差し出しなさい。
 一滴たりとも無駄にするんじゃないわよ。
 さあ、今すぐ始めて。』
うっとりとしたその表情に、
蛇女の言葉を躊躇わずに実行する身内に、
小芭内は痛みより絶望で身が焼かれる思いがした。

座敷牢に戻され、その目は何の色も写さなかった。
白と黒だけの世界。
ーーこの世に救いなどない

動く気力さえ無くしてしまった。

ーーーーーー



《小芭内、いつかここから逃げよう
 二人なら何とかなるさ。
 外にさえ出られれば
 もう此処より酷いところは無い。
 一緒に。外の世界に行こう》

ーー夢、か、、、。

小芭内は体を起こす。
相変わらず色を失った座敷牢。

しかしそこに1匹の白い蛇がいた。

『私の贄なんだから』
蛇女の姿が頭に蘇り途端に汗が額に浮かび、口の傷が痛み出す。
蹲る小芭内の膝に蛇は擦り寄り、顔を覗き見る。

真紅の紅い二つの目。


白と黒の絶望の中、小芭内の目に紅が見えた。
「……狭、、。」
その瞳はかつて兄の様に慕った狭の瞳を思い出させる。

《一緒に。外の世界に行こう》

心が温かくなるのを感じた。
狭と過ごした日々が蘇る。色が戻ってくる。
それから小芭内は逃げることだけ、生きることだけを考え始めた。

狭が小芭内に託すと言ったかんざしで、木の格子を削る。

白蛇は逃げる事なく、小芭内が格子を削っている間、牢の外を見張り、人が来ればすぐに小芭内に知らせた。

「ありがとう。お前のおかげで作業が進められる」
白蛇は小芭内を労るように手をチロチロと舐めた。
「一緒に外に逃げような。………」
頭を撫でると白蛇は目を細めて喜んでいるように見えた。


兄のような彼の声がまた聞こえた気がした。


「……鏑丸。生きよう……」


ーーーーーー


時は経ち、小芭内は蛇柱と呼ばれるまでになっていた。
蛇女にくるしめられたのに鬼殺隊になって身に付いたのは蛇の呼吸。
あれほど蛇を、蛇に縋る一族を嫌悪していたのに今はそれほど嫌では無くなっている。
それはきっと鏑丸がずっと一緒に居たから。

ーー狭。あの時牢屋から逃げ出して本当に良かったと思っている。
  お前が言った通り、世界はとても広くて美しい物もたくさんあった。
  屑な一族の生まれでも、誰かの為に命を懸け少しでも"いいもの"であり続けられるように。俺は鬼を斬り続ける。

《一緒に行こう。どこまでも。
 そして、苦しい思いをした分
 幸せを見つけてくれ》

白と黒の縞柄羽織を身に纏い
今宵も鬼へと刀を振るう。

肩の上には鏑丸。

「蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙」




伊黒小芭内の屋敷には髪に飾るには短いかんざしが一本、今も大切に窓辺に飾られている。


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3000hit感謝!!
今回は夢では無いものをお届けという形になりました。
ええ。あっという間にカウンターが回った事もありますが、、今回、リクエストはなかったんですよ。
ははは。相変わらず読んでくださる方々とのコミュニケーションがないサイトでございます。
サイトに通って下さる方がいるだけで感謝しております!!これは本当に本当です!!

さて、名前変換をつけなかった理由は鏑丸に転生する少年を描いてみたかったからです。
読み切りなので、あまり話を広げすぎないようにとした結果、淡々と進む流れに収まってしまいました。でもそこそこな長さ。鏑丸の"鏑"と弐ノ型の狭頭の毒牙から"狭"それで、鏑木 狭。
小芭内さんと最終戦まで戦い続けた鏑丸、ただ牢に迷い込んだだけの繋がりでは無いのではという個人的な妄想。転生前兄的な立ち位置だったので、幸せ祈って蜜璃ちゃんとの仲を取り持つような事もしちゃうそんな感じです。

お楽しみいただけましたでしょうか?
今後も「うたかた」を見守っていただけると幸いです。
ご覧いただきありがとうございました。


21.10.31




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