D4000hit御礼


頭では分かっている。
親の仇であって、鬼は斬るものであると。

その為に育手のもとで厳しい鍛錬にも耐えて、呼吸と型を会得した。
なのに何故だろう。鬼と対峙する事なく藤襲山の最終選別を通過してしまい、どこかふわふわした感覚がまとわりつく。

日輪刀がとても重く感じられた。

初めて与えられた任務で、親を殺された後初めて対峙する鬼。
血塗れのあの日はもっと鬼は人とかけ離れた生き物に見えていた。
しかし今はどうだろう。
現実味がないというのか、本当にあの日親を殺した生き物と同類なのだろうか?
一緒に任務に当たっている隊士に斬り付けられ、鬼からは血が流れている。

ぽたり、ぽたりと赤い血が。


  鬼と人の境界線がぼやけてくる。


「春っ!!何をボーっとしてるんだ!!」
「す…すいませんっ!!」

激しい痛みと共に目の前が一気に暗転した。鬼に攻撃され身体が吹き飛んだと気づいた後、先程、怒鳴った隊士が血を流し力無く倒れている姿が目に映る。

ーー私は何をしていだんだろう。
  親の仇である鬼を討つんじゃ無いの?

春は日輪刀を握り無我夢中で駆け出した。
「壱ノ型っ!!ーーーーーー」



ーーーーーー

鬼の体が目の前で崩れていく。

血を流していた隊士は息をしていて、命を失わずにいた事に胸を撫で下ろす。
出血に比べて怪我の程度は酷くはなかったようで、助かったと隊士は微笑んだ。


鬼を討つ事はできたが春の手は震えが止まらない。
負傷した隊士は隠が担架で運んで行った。しかし春は動く事が出来なかった。
震える手を見つめ座り込んだまま隠が声をかけても、肩を揺すっても春はまるで抜け殻のようだった。
そんな春に近づく人を見て、隠は静かにその場を任せ離れて行く。

「痛むのか」
「…………水、柱様、、」
冨岡の声が止まっていた春の心に染み渡って時間が動きだす。隠にも声をかけられていたはずなのにどうして冨岡の声が届いたのかはわからない。何故かその声は暖かい気がした。
春の目から涙が溢れ出し、明らかに冨岡が困惑していく。
「ごめんなさい、、すぐ止まりますから、、
 ごめんなさい、、大丈夫です…」
目元を隊服の袖口で拭い、涙を拭き取ろうとするものの、目元が赤くなるばかりで涙が止まる気配はない。


冨岡から小さなため息が聞こえ春は益々縮こまる
ーー柱様に迷惑かけてしまった、、
  もう本当に自分が嫌になる、、


頭の上にふわりとした感触と共に、視界が周りから遮断される。
涙で歪むその世界は左右で色が違っていた。
「見てない。気にするな、、」
近くにあった筈の気配は離れて行った。

ーーーーーー

涙が落ち着き顔を上げると、頭にかけられていたのは冨岡の羽織であり、彼は近くの木の根元に背中をつけて座っていた。何を考えていたのかわからないが、顔を上げても視線が合わないようにしていてくれたんじゃないかとなんとなく思えた。
畏れ多くて逃げ出してしまいたいけれど、羽織を返さなければいけないのと、待たせていた事を謝らねばいけない。春は冨岡に向かって歩みを進めた。

「……あの、、羽織、、ありがとうございました。……あと、すいません、、水柱様もお疲れでしょうに付き合わせてしまって、、」
「…構わない。もういいか、、」
「あっ、、はい!…えっと、、多分、、あ、、でも…」
だんだん肩が落ちていく春の姿に、返された羽織に手を通しながら再びため息がこぼれてしまった。
ーー俺でなければ後輩の話もちゃんと聞いてやれるのかもしれない。
今のため息は目の前の新米隊士に向けたものではなく、自分には相談一つ聞いてやる事が出来ないという無力感から出たものだった。しかし春には冨岡に呆れられたとしか思えなくて、視線が下を向く。

「本当にごめんなさい。
 わたし、選別も鬼を斬ることなく運良く通って…
 ……今日初めて鬼を斬ったんです。」

家族が鬼に殺されたから、同じ思いをする人を減らすとか言って鬼殺隊を目指したのに、、

「鬼を斬った感触が手から消えないんです。
 うめき声が耳から消えてくれないんです。
 鬼の頸を斬ったんだから、、
 被害に遭う人を減らしたんだから、、
 喜ぶべきだと思うのに、、」


鬼にも血は通っていて
"人であった"と言う事が頭をよぎってしまう

殺されたはずの親が鬼となって飛びかかってくる幻が見える。そこには血濡れた刀を握る自分が居て、親へ向かって刀を振り上げる、、


「考えるな」


下を向く春の頭に冨岡の手が乗せられた。



「……違う。

 考えろ。それが刀を持つ責任というものだ。
 斬られたものにも、斬ったものにも傷みは伴う。だからこそ、斬るべきものが何で有るのかよく、考えろ。」

辛くていい。苦しんでいい。逃げる事があっていい。ただそれだけはいけない。

それがこの修羅の道なのだから。


止めたはずの涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「いたみを知るものは必ず強くなれる」

傷みを、痛みを、そして悼みを。

「はい。、、ありがどうございまず」
グズグスの鼻声で冨岡に伝わったのか分からない。

それでも春にはこの冨岡義勇という人が尊敬に当たる人物になった。



ーーーーーー


「義勇さん!!刀忘れてますよ!!」
任務に向かう冨岡の後を追いかける女隊士の姿があった。
「寛三郎がうつってますよ。老けるにはまだ早すぎます!!」
「……老けッ、、」
心外とばかりに刀を届けた隊士に目を見開いた。

受け取る刀の向こう側で春が笑う。
「……ご無事で。任務が明けたらご飯に行きましょう」

泣き虫新米隊士だと思っていたのに、春はいつの間にか後輩の隊士を連れて行く剣士になっていた。

信じるものが形を成した彼女には、もう斬るべきものが見えている。
もう春は大丈夫。冨岡は口にしないながらもそう思う。

「生きて戻れ」

言葉を残して歩き出す。


いくらだって悩んでいい。
辛いと泣いていい。
ただそれを力に変えて

また歩き出す。

願う未来が修羅の先にあるのだから。




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4000hit感謝でございます!!
色々あったので、今回は喜んで良いのかよく分からない感もありますが、何にせよ足を運んでくださった方への感謝の気持ちです。
すごくわかりにくい物に仕上がってしまった気がします…。
鬼と人の共通点に戸惑う夢主。それを悩んで答えを見つけるべきと諭す義勇さん。
口数が少ない彼で話を進められるか、悩みました。でも、この問題に悩んで良いと言えるのは義勇さんしか居ないと思ったんです。
禰󠄀豆子ちゃんを斬らない選択ができた彼なら、問答無用、考える必要は無いから斬れとは言わない。
そういう尊敬のされ方も有りかなと。
そういう隊士がいても良いのかなと。

甘かったり、恋仲なお話を見たかった!!と思った方は、是非次回リクエスト募集中を見つけたら送ってみてくださいませ。
書けたら書きます!(自信ない/笑)

今回の未変換での名前はお友達が考えてくれたオリキャラちゃん達から。リクエストではないものと、長編など設定付きではない読み切りは今後「はる」でいきたいと思っています!
お友達にとってはサプラーイズな事後報告です
(本当は平仮名のはるでしたが、タグ落としになりそうで漢字に変更しました。ごめんねっ!!)

これからも読んでいただけるよう精進してまいります。お付き合い頂けると幸いです。




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